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万事屋銀→新 神楽ちゃんと薬ネタ
※ ※
この間、銀ちゃんが告りました。
ダメガネに。
「俺と一発おにぇ・・・お願いしますっ!!!」
肝心なとこで舌を噛んでしまった銀ちゃん。けれど、そもそもその告白の言葉もどうよ。
新八は眼鏡をくいっと上げ、しげしげと銀ちゃんを眺めた後、無表情で帰っていきました。
告白に対しての返事もツッコミも何一つありませんでした。
当然である。
それが二週間前の出来事。
その次の日、新八は普通にいつもの様に万事屋へ着ました。
それから私と銀ちゃんを叩き起こし、朝ごはんを作って、定春に餌をやって、掃除をして、洗濯物を干して、お昼ご飯を作って、くつろいで、お買い物行って、夜ご飯を作って、お片づけをした後は普通にいつもの様に帰っていきました。
その間、新八は普通にツッコミダメガネでした。
どうやら新八の中では無かった事にされたようです。
困ったのは銀ちゃんでした。
結果として新八に完全にフラレた事となる現実を受け止めきれない銀ちゃんは、そのまた次の日から新八に猛アタックを開始したのです。
これまでのマダオっぷりがウソのように、銀ちゃんは新八に愛の言葉を繰り返し囁き、お買い物に付き合ったり、家事を手伝ったりなど新八に尽くし、あの手この手で新八をなんとか振り向かそうと躍起になりました。
しかしその間、新八は普通にツッコミダメガネでした。
あの銀ちゃんがここまでしているというのに、新八は新八だったのでした。
さすがの私も見ていられなくて、少しは銀ちゃんにフォローを入れてやったけどあんまり報われませんでした。
「銀ちゃん・・・いい加減現実を受け止めろヨ」
「ワンッ!」
「イヤだァァァ!!俺はアイツじゃなきゃ絶対にイヤなんだァァァ!!!」
毎晩お酒に溺れる銀ちゃんとそれにオロナミンCで付き合う私と定春。
銀ちゃんへのフォローという名の確定申告を告げるのも私の役割でもあります。
一週間続いた銀ちゃんの猛アタックも結局、残念な結果で終わりました。
そしてついに、とうとう銀ちゃんは本気でヤラかしたのです。
「新八ぃーいつもありがとな。ほいっお茶」
「わっありがとうございます銀さん」
新八への労いとお茶を差し出した銀ちゃんに、新八は素直にお礼を言いました。
嬉しそうに銀ちゃんの淹れたお茶を飲む新八を、銀ちゃんも嬉しそうに眺めてました。
一見、なんともささやかな幸福の時間です。
けれども、私は銀ちゃんの目の奥が不穏な光りで輝いているのが気にかかります。
傍に居る定春もなんだか心配そうです。
もしや・・・あの天パ、ヤッちゃった・・・?あのお茶になんか一服盛っちゃった系か?良い予感がまったくしません。
固唾を呑んで見守る私と定春、そして――――。
新八の身体が突然傾き、持っていた湯のみが落ちました。
そのまま新八は倒れ――床に落ちる寸前で傍にいた銀ちゃんが新八を受け止めました。
「新八ィィィ!?どうしたアルか!!」
「ワンッワンッ」
「うるせーよおめーら。新八はただ寝てるだけだから心配すんな」
「寝てるってこれ完全に意識失ってるアル。銀ちゃん、一体何しでかしたアルか」
「人聞きの悪いこと言うな。俺はただいつも忙しく俺たちの為に働いてくれる新八君の為に、お茶でも飲んで心も体もリフレッシュしてやろうとしただけだよ。ちょっと惚れ薬入れの薬湯だけど」
「ちょっとじゃねーヨこのマダオ!そんなモノ飲んでリフレッシュするわけないアル。新八が振り向いてくれないからって薬に頼るなんて、銀ちゃん見損なったヨ!!」
「ワンッワンッワンッ!」
「だああああうるせー!!俺だって本当は分かってんだよ、こんなモンに頼って得た愛なんて偽者だって事ぐらい!でもいいかげん俺もこの先どうしたらいいのか分からなくなっちまったんだよ。だってコイツ、ぜんぜんウンともスンとも言わねーんだもん!ぜんっぜん普通なんだもん!何コイツ、なんでメガネなの!?なんでメガネ掛けてんの!?この俺があれだけ毎日毎日頑張ってんのに、なんで普通にツッコミしてんの!?いいかげんに意識の一つもしてくれたっていいじゃん!!ねえそう思わない!?思うだろ普通はよおおおお!!!」
目尻に涙を浮かべ逆ギレで吼えまくる銀ちゃん、この一週間で溜まりに溜まった本音が一気に出てきたのだろう。
銀ちゃんの言い分は、この数日間近くで見守ってきた私にはよく分かる。分かるのでなんだか泣けてきた。
しかし、出来心の末の犯行は見逃しては置けない。
それが自分の一番近しい人、家族であるからこそ。
ましてや人の心を、薬一つで捻じ曲げようとするのはとてもいけない行為だと、幼い私なりに分かっているつもりだ。
「銀ちゃん・・・今の銀ちゃんを好きになる新八なんて私も定春も見たくないアル。銀ちゃんもそんな新八よりいつもの新八が大好きなんダロ?いつものツッコミダメガネだから、銀ちゃんはそんな新八に惚れたアル」
「神楽・・・定春・・・」
くぅーん・・・・定春の小さな鳴き声が万事屋の中に響く。
銀ちゃんはいつもの死んだ魚のような目を細め、溜息を吐くと私と定春の頭を撫でた。
ソファに寝そべる新八の傍により、新八のほっぺを大切そうに撫でる銀ちゃんはもういつもの銀ちゃんに戻っていた。
「・・・わりぃ。頭が冷えた」
「銀ちゃん」
「わふっ」
「そうだな、もう少しで俺は惚れたヤツを悲しませるところだった。ありがとな神楽、定春。お陰で目が覚めたわ。新八が目覚ましたら、もう一度本音で告ってみるわ。今度は薬じゃない、ありのままの新八で振り向いてくれるように」
銀ちゃんは懐から手鏡を取り出した。
私が聞くと、「保険だ」って答えた。
もしも、誤って惚れ薬を飲んでしまった場合の対処法なのだそうで、そもそも惚れ薬とは飲んで意識を失った後に一番初めに視界に入った相手に恋をするのだという。
そうならない為に、一番初めに映った相手が自分であれば、今までの自分よりも一番自分のことを好きになる。
念のために鏡を用意していた銀ちゃんも、ちゃんと心の中では新八のことを想い悩んでいたのだ。
私は銀ちゃんにそっと近寄り、そして――――手鏡を割った。
「おいいいいい!!?何してんのお前!!・・・ってちょ、ちょっと、神楽ちゃん、神楽ちゃんっ!?なんで銀さんの頭を掴んで新八に近づけてんの!?何しようとしてんのお前っ!」
「もうあたいは疲れちまったよジョニー。毎晩銀ちゃんの自棄酒に付き合って睡眠時間を削るのも、オロナミンCも飲み飽きたアル。おかげで私の腹の中はCでたぷたぷヨ。この辺でそろそろ形をつけて、全てツルッと丸く治めるアル」
「丸くなるどころか、キレイな円にもならない可哀想な楕円になっちゃうよ!?つーか、お前さっきと言ってる事違うぞっ」
「おらァァァ!!つべこべ言わず、もっと新八の目玉に銀ちゃんしか映ってないくらいに近づくアル!!大丈夫なにも問題ないアル。今この家の中には私と定春と銀ちゃんしか居ないネ。私たちが黙ってれば、全てハッピーエンドアル!!」
「ハッピーどころかアンハッピーだよ!!共謀犯どころか首謀犯だよお前!!!」
ギャアギャア騒ぐ私たちの口論に、目を閉じていた新八の睫が震えた。
ドキッとした私たちは一瞬で静かになり、新八を見る。新八の顔の近くにいる銀ちゃんは、緊張していた。
新八の瞼がそぉっと開く寸前―――「銀さぁぁぁぁん!!」「お邪魔をするぞ銀時ィ!!」「かぁつらぁぁぁぁぁ!!」という聞き慣れた声が一斉に万事屋の天井、窓、玄関から飛びかかった。
天井から飛び降りてきたさっちゃんは銀ちゃんに抱きつき、手土産持参でノコノコやってきたヅラは丁寧に玄関から勝手に上がってくるものの、窓から這い出てきたドSヤローと黒服集団が土足で上がりヅラを捕まえようと騒ぎを起こす。
新八が今まさに目覚めようとした瞬間に、この騒ぎだ。
いつものパターンとはいえ、タイミングが悪い。
慌てた銀ちゃんはさっちゃんのメガネを外し近くに居たエリザベスにパスし、私はドSヤローに跳びかかり、援護されたと勘違いしたヅラは「おおっリーダー!!」と私に向かって両手を広げるが定春に頭から噛み付かれた。
めがね無しのさっちゃんに抱きつかれて慌てたエリザベスが、手に持っていた何かを床にぶちまけると白い煙幕が万事屋中に広がった。
銀ちゃんはソファに寝そべる新八を庇い、げほごほと息を吐く私と定春がクリアになる視界を見渡すとすでに騒動は収まっていた。
騒がせていた連中は後からも消えうせ、ただ天井と窓と玄関だけが開いている。
逃げ足の速いヅラとエリザベスは煙幕の中さっさと逃げて、それを追うドSヤロー達とエリザベスを銀ちゃんと勘違いしたままのさっちゃんもその後を追っていったようだった。
「「・・・・・・。」」
まるで通り雨のような、台風のような一時の大騒動であった。過ぎ去った後の静けさが、万事屋中を支配する。
私も銀ちゃんも言葉も無い。
新八の「うぅん・・・」という声を聞くまでは、呆然と窓の向こうに広がる青空を眺めていた。
新八がとうとう目覚めた。
「新八っ!お前目が覚め・・・」
「しんぱ・・・・っえ?」
私と銀ちゃんの声は途中で消えた。
目の前の光景に言葉を失ったからである。
新八は―――――。
「・・・・・・・定春」
頬を真っ赤に染めた新八と、無邪気な定春が見つめ合っていたからであった。
□
それから、万事屋では一つの恋が生まれた。
片時も定春の傍を離れない新八と、迷惑そうにしている我が家のペット定春の恋である。
定春の白いモフモフの毛を抱きしめ、満足そうな悦に浸る新八が悩ましげな溜息を零すたんびに、私の隣にいる憐れなマダオがギリギリ歯軋りをし嫉ましげに定春を睨む。
定春に他意はない。たまたま、偶然とタイミングでああなったのだ。
正直、結果的にこうなってちょっと安心していたりする。
あの騒動がもしも長引き、あのお騒がせな連中の誰かが新八の視界に入っていたら――?そう考えると私も銀ちゃんも腹立たしくある。
しかし、やはり惜しいと思う気持ちもあるわけで。
「・・・人生って上手くいかないアルな」
しみじみと呟いてしまうのであった。
そして、もう一つ変化したこともある。
それは――
「あんまりこっち見ないでくれます?ぶっちゃけ、かなりウザイんですけど」
「・・・すみません」
新八の辛辣な刺々しい言葉と冷ややかな視線に、銀ちゃんが小さく謝った。
なんということであろうか。
定春に優しい声で話しかけモフモフの毛に顔を埋め思いっきり甘える新八は、銀ちゃんにだけは冷たい態度をとる様になった。
あの惚れ薬以降からである。
視界に入るのもイヤ、近寄られるのもイヤ、まるで思春期の娘と同じ空間にいるのも嫌がられる可哀想な親父みたいな図である。
銀ちゃんにだけは一方的に冷たい態度をとる新八であるが、私には普通にいつもどおりに接してくれる。
なのでこれはもう、黙って一服盛った銀ちゃんの行いによる天の罰なのだろうか。
そう思うと、可哀想ではあるがこれも自業自得であろうかと納得せざるを得ない。
薬の効力は2~3日と聞く。
それまでは、銀ちゃんにはこのピンクのオーラが蔓延する空間に我慢してもらうしかない、が。私は落ち込んでいる筈の銀ちゃんの様子が気に掛かる。
新八から辛辣な言葉を浴びせられるたんびに、新八の視線からあからさまに外されるたんびに、銀ちゃんは落ち込むどころか、かすかに笑みを浮かべ嬉しそうに笑うのである。
これにはさすがの私も引いた。
銀ちゃんは目の前の現実を受け止められずに、ドSからドMに転身したのだろうか。
「ぎ、銀ちゃん・・・?大丈夫アルか?」
「おー俺はぜんぜん平気だぜ。むしろドンドン冷たくされたい気分だぜ」
やはり、おかしい。どうしよう、銀ちゃんが壊れてしまった。
私はどうしたらいいのだろう。
医者に見せたほうがいいのだろうか。でもドMを治して貰えるところなんてあるのだろうか。
不安になった私に、銀ちゃんは私の頭を撫でくしゃくしゃにすると一つの小さな箱を投げた。
受け止めた私に、銀ちゃんはニタニタ気持ち悪く笑うと座っていたソファを立ち席を外す。
わざわざ新八の傍を通りながら歩く銀ちゃんに、新八は心底嫌そうにシカトした。
その光景に私は、疲れた溜息を吐く。
銀ちゃんが渡してくれたその箱は、惚れ薬の瓶が入っていたパッケージだった。
箱の裏には販売名や効能、用法用量などが書かれている。
やはり地球外で販売されている外来の薬だった。
銀ちゃんが一体どうやってコレを入手したのかは不明だが、コレをわざわざ取り寄せる銀ちゃんもコレを作った奴も一度、定春に頭を齧られればいいのだ。あ、でも銀ちゃんはすでに手遅れか。
私はなんとなくパッケージの字に目を追っていくと、気になる文章が飛び込んできた。
『注意・使用に際して、好意を抱いていた相手とは別の人物に効能が効いてしまった場合、稀にその副作用によりそれまで好意を抱いていた相手へ悪意・敵意を向ける場合もありますのでご注意下さい』
「・・・・・ん?」
私は、その一面を読み返した。
そして頭の中で、一生懸命に理解する。
ようは、好きな人とは違う人を惚れ薬で好きになっちゃった場合、ずっと好きだった人を嫌いになっちゃうってことでファイナルアンサー?
うちの場合は、人ではなく犬であったがまぁ変わりは無いだろう。
新八が惚れ薬を飲んだ後、あからさまに態度を変えた相手は今のところ定春ともう一人、銀ちゃんだけだ。
定春に対しては見たとおりな態度である。
あの辺りだけ空気が全然違う。なんか目に見えないハートマークが飛び回っている。
では、銀ちゃんにはどうだろうか――。
「ちょっと!こっち見ないで言ってるじゃないですか!!もうマジウザイし最悪!!」
「・・・うん、ごめんね?」
ちらちら新八を見れば、嫌そうに眉を顰め冷たい言葉で詰る新八。そして、落ち込むどころかますます嬉しそうにニヤつかせる銀ちゃん。
「・・・・・。」
銀ちゃんは居間に掛けられたカレンダーの日付を、指折り数えてほくそ笑んでいる。
薬の効力が切れるのは2~3日後である。
つまり、万事屋にまた新しい恋が生まれる事に成るのはその同時期であろう。
私は持っていた惚れ薬のパッケージをそっと、テーブルに置いた。
銀ちゃんに口止め料として貰った酢昆布を齧る。
いつもよりもちょっとだけ、酸っぱかった。
※ ※
>>postman お題より
お約束。その後の新八くんの運命は如何に。
銀さんに猛アタック受けていた新八君はきっと名俳優。新八君は新八くんなりの悩みがあったのでしょう。
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