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短文
万事屋銀→←新
※ ※
昼寝から目が覚めた銀ちゃんはまず最初にメガネを探す。
これはすでに銀ちゃんの癖であり習慣のようだった。
本人はぜんぜん気づいてないけど。
それを知るのはおそらくこの世の中で唯一一人だけ、つまり私だけである。
銀ちゃんの本人でさえ気づいていないこの癖に気づいて以来、私は一肌脱ぐことにした。
あのマダオのことだ。
放っておけば銀ちゃんは一生メガネを探し続ける人生を送る事になるだろう。
そんな寂しい人生に必要なのは、小さな転機と可愛いキュートなエンジェルである。
メガネと言っても銀ちゃんがかけるメガネではない。
万事屋の雑用兼ツッコミ兼おかんポジのメガネこと新八のことだ。
好き勝手に跳ねている天パを寝ぼけた様子でがしがし掻き毟りながら、死んだ魚の様な目をあちらこちらウロウロさせるとようやく向かいのソファに座る私に気づいた銀ちゃんは口を開きかけた。
銀ちゃんが何を聞こうとしているのかをすでに知る私は、銀ちゃんが声を出す前に親指で隣の和室を指差した。
指を指す方向を見た銀ちゃんは襖の開けっ放しの和室を見ると、何も言わないままのっそりと立ち上がり和室へと向かった。
まるで子供が母親を捜し求めるような、はたまた姿が無いと落ち着かない老年の夫婦のような姿にやれやれと息をつく私のことなど気づきもせずに。
和室の真ん中で洗濯物を畳んでいる新八は襖の前で佇む銀ちゃんの存在に気づくと、頬を淡く染めほんわか暖かな笑顔で「おはようございます銀さん」と言った。
その笑顔がこの三十路前のマダオの心を鷲づかんでいることなど、新八はおそらく一生知る由もない。
「あーうん」と言葉を濁しながら新八の隣に座った銀ちゃんに、新八は途中だった洗濯物の続きを畳みながら銀ちゃんに言った。
「良く寝てましたね。これ終わったらお茶出しますから、待っててくださいね」
「うん。てかさー・・・」
「はい?」
「お前、ソレ」
顔をかしげる新八の頭を指差した銀ちゃんに、私は内心ほくそ笑んだ。
ソファに座りテレビを見ている私のところからでは銀ちゃんが今どんな顔をしているのかはわからないが、見ていなくても分かるのである。
きっといつもと変わらない死んだ魚の様な目でパーカーフェイスを気取っているのだろうが、内心はそうでない。
その証拠にソファの背もたれから顔だけを出して覗いてみれば、新八の前髪をキュッと結んでピョンッとなったソレを銀ちゃんはちょんちょんと指でつつき甚く気に入っているようであった。
分かりにくいし本人も気づいてないだろうが奴の耳がうっすら色染めし、死んだ魚の様な目の奥はまるで愛しい者を愛でるかのように新八を見つめ、二人を包むオーラがうっとしいことになってきている。
結んである髪留めには小さな白いお花が飾られていて、それは新八が昔使っていた髪留めを家から持って来て私にと、くれたものだった。
「ありがとうアル新八!」
「神楽ちゃんに似合うと思って。おいで、結んであげるから」
誰が使っていたのかをあえて聞かなかった私は空気の読める女である。
新八もあえて言葉を伏せているあたり、姉御の髪留めでないことは確かだ。
その髪留めはとても可愛くてとても嬉しかった。――が、私は手のひらの髪留めを見つめそこで閃いた。
もう一度言おう。
私は空気の読める女である。
「神楽ちゃん?あっあれ?ちょ・・ちょっと。かっ神楽ちゃんんん!!」
「ええい!大人しくせんかっ、世が可愛がってやるぞヨ!!」
「それどこのお代官様ぁぁ!?」
その髪留めを。
新八にとって軽くトラウマであろうその髪留めを、あえて新八の前髪にキュッと結んでピョンッとさせた私は私にグッジョブカグラ!!と賞賛した。
後は銀ちゃんが起きるのを待つだけ・・・と満足そうにほくそ笑む私に対し、前髪をキュッと結んでピョンッとなった新八はソレを指で弄りながらちょっと沈んでいたけど気にしない。
そして時間は今にいたるのであったが、果たして銀ちゃんはどう反応しどう行動に移すのか。
これは単なる可愛いエンジェルの悪戯ではない。
ダメガネに長年想いを寄せるうっとしい三十路前のマダオに贈る私からのエールである。
二人を包むオーラが今以上にうっとしいことになり、口から砂糖を吐きそうになるのは時間の問題であり
その頃には、愛のキューピットである私に銀ちゃんが酢昆布10箱を献上する姿が見れるようになるのも
そう遠くないとっても身近な未来のお話であるだろう。
※ ※
>>postman お題より
新八君の前髪をキュッと結んでピョンッとさせたかっただけです。
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