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3Z銀パチ
【フィクションの先行き】の後
*3Zになる前なので皆別のクラスで高1らへん
※ ※
あの夏の雨の日に出会った男性は、学校の先生だった。
直接お話はしたことなかったけれど、遠くから眺める姿はいつも怠惰を背負ったやる気のなさそうな天然パーマの先生という印象で、けれども綺麗な銀髪頭とヤニ臭い煙草を吹かす白衣の猫背が妙に似合う。
煙草の匂いに慣れない私の為に煙草を消してくれた男性が、いつも眺めていたあの銀髪天パだとわかったのはその後すぐだった。
メガネを掛けてないぼやけた視界の中でもはっきりとわかったその優しげな笑顔が意外に思えて、当の本人は私のことなど知らないのだろうなあと思ったら急にくすぐったくなった。
あの瞬間で交わした会話は『先生』としてでなく『一人の男性』としてなのだと思うと、その瞬間私へ投げ掛けてくれた言葉は『生徒』としてでなく『一人の女性』として接してくれたのだろう。
自分が急に大人になった気がして、妙にむず痒くて堪らない。
あまり子供過ぎないように意識してみたけど、先生との会話は楽しかった。
「さようなら、先生」
小さな悪戯を含んだ言い回しに死んだ魚のような目を丸くした顔が可笑しくて、これは休み明けが楽しみだと思う反面、自分の地味で目立たない存在に先生のような派手な人が分かってくれるだろうかと少し後悔した。
気づいてくれなかったらそれまでのこと。
自分だけが覚えていて先生は忘れていたら、それは少し寂しいし恥ずかしい。
だから―――
「さようなら、先生」
先生に帰りの挨拶をする生徒としてなら、あの別れの時と同じ言葉を言ってもおかしくはない。
そう考えてすれ違い様に後ろを振り返ってみれば
先生はあの時と同じ死んだ魚のような目を丸くして私を凝視していた。
□
アレ以来私と先生の関係が深まったのかと言われれば、そうでもない。
冷静に考えれば、先生にとっては私がまさか自分の学校の教え子だとは思ってもいなかっただろう。
私がもしも同じ立場なら、騙された!とはいかずとも、からかわれたと思うかとも知れない。
むしろそうゆう気持ちでいたし。
実際私たちの関係は教師と生徒であることには変わり無く、期待していたのかと聞かれれば否とも答えられないのがこの微妙な気持ちである。
坂田先生はその気だるげな雰囲気が生徒達からの受けが良く一部女子生徒たちからは熱烈な視線を浴びることが多い、らしい。
頼んでもいないのに同じ組の山崎さんが教えてくれた。
私と同じ地味系なのに人の心情や雰囲気を察するのが巧い人だ。年中ミントンに熱情を燃やす変わった人だけど。
今も自称くの一のさっちゃんさんに飛びつけられそうになった坂田先生が、さっちゃんさんのメガネを窓から放り投げさっちゃんさんの突進をかわしていた。
さっちゃんさんはそのままエリザベス先輩に抱きつきそれを剥がそうとする桂さんの奮闘ぶりと、さっちゃんさんに抑圧された近藤さんが姉上に猛烈なアタックをしかけ姉上に殴り飛ばされ、そしてその近藤さんの情けない姿に顔に手を覆った土方さんの背後に回った沖田さんのバズーカに怒り狂った土方さんが掃除用具から出したモップで応戦し、その間に神楽ちゃんが近藤さんの鞄を漁り何故か出てきた大量のバナナを食べ散らかし、その横を求人雑誌に夢中になっていた長谷川さんがバナナの皮を踏みド派手にすっ転ぶ。
そのカオスに同学年である私含む周囲にせめてできる事は、関わり合いにならない事。すなわち、見てみぬフリである。
ひっそりと私は帰り支度を整え、一人廊下を歩く。
賑やかなあの騒動には一生関わることはないだろう。例えば、彼らのような人たちと同じクラスにでもならない限りは。
でもいざ同じクラスになればそれは宇宙語しか通じぬナメック星に生粋の日本語しか話せぬヤムチャを放り込むようなもの。彼らの派手さに己の地味さが書き消えてしまうだろう。
目に見える嫌な未来に、やはり誰にも迷惑の関わらない地味な生き方が自分らしいと頷いていると後ろから声を掛けられた。
「あれれ~志村妹じゃん。何、帰るの?」
傍迷惑な図の筆頭からだった。
恐る恐る振り返った私【ヤムチャ候補】に、坂田先生【ナメック星人】は顔をニヤつかせ近づいてくる。
思わずあとずさりした私に非はない。敷いて言うならば、小動物の本能だ。
「・・・坂田先生」
「ちょうどいいや。お前暇だろ、先生のお手伝いしてくんない」
基本、このナメック星人は私の用事などお構いなしである。
私の返事を聞く気もない先生はさっさと自身の占拠地である国語科準備室に足を向かう。
聞こえないかもしれないささやかな抵抗を含んだ声をなんとか振り絞った。
「ちょっ・・・・まってください!私今日はっ」
「どうせお通の特番かなんかだろ。お前のことだからビデオの予約してんだろうし別にどうってことないだろ」
「どうせって何ですか!お通ちゃんに失礼ですよ。それにビデオの予約をしつつも生で見ることに意義があるわけで・・・あっちょ、ちょっとおおお!?」
「えーいいの?マジでー?ありがとう志村さーん」
「志村さんこっちィィィ!」
ささやかなヤムチャの抵抗はやはりナメック星人には通じない。
メガネを人質に捕られた私は泣く泣くお通ちゃんへの思慕を諦めることとなった。
占拠地に足を踏み入れた私はさっそくプリントのホッチキス止めを手伝わされた。
プリントには学園祭と記るされていて、私にとっては銀魂高校に入って初めての学園祭である。
少し弾んだ気持ちで先生に話しかけた私はすぐに後悔した。
「俺学園祭にはしゃぐ女子もそれに便乗してテンション上げる愚の骨頂男子もそれら全てを受け入れ抱擁する教師がちょーむかつくんだよね」
「ようするに学園祭が嫌いなんじゃないですか。どんだけ暗い青春送ってきたんですか」
「うるせーな。あ、でも一つだけイイとこあるぞ」
「え、何ですか?」
「そうゆうお祭りの影でこっそりしっぽりすんのが燃えところとか」
ホッチキス止めの手を休めた私を見つめ、重々しく口を開いた。
真剣な眼が余計に腹ただしい。
「最低です。しばらく私に話しかけないで下さい」
「たくよー。パチ恵ちゃんは大真面目なんだからー」
「先生セクハラです」
呆れた溜息をつかれたがそれは私がするべきだろう。
なのに私はというと、さりげに名前呼びされたことに動機を激しくさせていた。
たったこれだけなのに落ち着かなくなり、胸も頬も額もなんだか火照ってくる。
顔を突き合わせ二人っきりの空間にいることが、どれだけ恥ずかしくて居た堪れなくて今すぐ逃げ出したくなることか。
この男性には少し学んでほしいものである。
「でも俺さー。学園祭よりももっとテンション上がる事したいんだよね」
「・・・聞きたくないけど話の進行上あえて聞きますよ。それは何ですか?」
しかしこの教師は時折、あの夏の雨の日のような雰囲気を漂わせる。
――例えば、『教師』としてでなく
「例えば・・・“デート”とか」
『一人の男性』として。
ホッチキス止めの音だけがパチンパチンと準備室内に木霊する。
こんな時、私はいつも目の前の男性を『教師』として見れなくなるからとても困る。
私にだけ向けられる瞳がいつもよりも一層真剣を浴びていて、意識しないように務めようとすることが無理な話。
ホッチキスを動かす震えた手だけが、まるで今の私を保っている様で。
――手が熱い
――顔が熱い
――胸が熱い・・・
「そ・・・そうですか」
先生の顔が見れない私は、顔を逸らして答えた。
紅く火照った顔も耳もどうか見ないで欲しい。
そんな男の人みたいな眼で私を見つめないで欲しい。
熱くなった瞼に水が堪り、泣きたくなって唇を噛んで堪える。
少なくなったプリントを最後に止め、先生が溜まったプリントの束を纏めた。
それまでの雰囲気がうそのように掻き消え、いつもの死んだ魚のような目に戻っていた。
「うっし終わった。やっぱ一人でやるより片すの早いなー」
気持ちの切り替えが早い先生はやっぱり大人である。対する私はなんとか泣きそうな涙を押さえるのが必死で、早くこの場から席を外したかった。
「あ・・・あのっ私これで・・・」
「おーごくろうさん。助かったわーまたよろしくね」
当分はごめんだと思った。
こんなことがまた次にあれば、私の心臓は今度こそどうにかなってしまいそうだ。
鞄を抱えて私はすぐに扉へ向かった。
早くあの扉の向こうへいきたい。
でないと私は・・・・
扉の取っ手を握った直後に、私の真横を白衣の腕が伸び扉が大きな音を立てバンッと震えた。
私の背中が大きな身体に覆われ、視界が暗闇に閉ざされたような感覚に陥る。
心臓がドクドク叩き、冷や汗が私の額から零れる。
「――なあ、志村妹」
耳元から聞こえる先生の低い声と甘い息遣いが、私の固い三つ編みを揺らした。
閉ざされた扉に背中を預けた私を、先生は目の前まで顔を近づかせる。
もうすぐで唇がくっついてしまいそうだった。
こんなに近いのに先生の息は、甘い。
最近になってようやく気づいた。
「先生とさー」
先生は私と一緒にいる時だけ、煙草を吸わない。
「“恋愛”してみない?」
学園祭よりも楽しませてやるよ。
そう口元を笑って見せた先生の眼は全然笑っていない。
この人は初めから、私の返事を聞かない。
私は今になってようやく、この場所がナメック星人の占拠地であることを思い出した。
―そう。
ささやかなヤムチャの抵抗など、ナメック星人には初めから通用しないのだ。
※ ※
>>postman お題より
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