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未だ愛を知らず

「例えば僕がテロリストで君がリアリストだとしたら」より前の話
銀新
・銀さんと神楽ちゃんは原作のまま











※        ※

 たくさんの引き締めあう屋台や人々の合間を縫うように、真選組の平隊服を身に包んだ新八は上司に命じられある人物を探していた。
 此処に来るまでは一緒にいた筈なのに、着くなり早々ふらりと姿を消してしまった真選組一番隊隊長は待てど待てど隊に戻ってくる気配がない。
 きっとおそらく、もとい確実に遊んでいるのは確かであり、沸点の湧いた上司に連れて帰ってくるよう言いつけられていた。
 今年の夏祭りは天下の将軍様がお目見えに来ているともあって真選組はその警備についている。
 警備配置を入念にチェックしていた上司は特に気が立っており、そのとばっちりを受けがちな新八はいい迷惑であった。

 新八は元々内勤だった。
 そのためこういった現場に来るとこは今までにそうめったに無く、今回の警備に関しても上司の補佐として連れて来られたが、祭りの賑やかな雰囲気に中てられ真面目な性格の新八はいけないと思いつつも陽気な気分になってしまう。

 金魚に綿飴、カキ氷にヨーヨー・・・様々な屋台は熱く賑わいをしめしている。
 大好きな林檎飴の屋台の前ではついつい立ち止まり、口の中からでてくるヨダレを飲みこみ他の客が買う後姿を羨ましそうに眺めてしまった。
 少しぐらいならバレやしないのでないだろうか。
(だってさっき監察の山崎さんもたこ焼きつまみ食いしてたの見ちゃったし)
 あれはたぶんお使いだったたこ焼きではないだろうか・・・と推測し、そのお使い品を結構な量でつまみ食いしていた山崎の行為はやってはいけないことである。と、わかってはいるものの大人がそんなことをしてるんだから自分だっていいじゃないか、と甘い考えの方が勝ってしまう志村少年は誘惑に負けがちな遊び盛りの16歳であった。
 いざいかん林檎飴の屋台へ。
 新八が懐の財布あたりを布越しに手であて、屋台へ足を運ぼうとした瞬間うしろから大声とともに背中に突進してきた障害物に邪魔をされた。
三郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!ロケット発射ァァァァァァァァ
御意
ぎゃあああああああああっ!!?
 背中に当たった障害物に吹っ飛ばされた新八は道に面した通路へ転がった。
 さいわい左右に立ち並ぶ屋台に被害は無く胸を撫で下ろしたいものの、今はとにかく背中が痛かった。
 道行く人々に不審そうに眺められながら、首謀者と実行犯を確かめるべく背中の痛みを抑えながら振り返ると、そこにいたのはチャイナ服を包んだ少女神楽と片方の腕が無い妙なバカでかいカラクリだった。
 すぐ脇に転がるカラクリの腕らしき物を見下ろし、まさかこれが当たったのかと恐怖しながらそれを拾い神楽の元へ持って行く。
「こ、こんばんは神楽ちゃん、もしかしてこの腕ってこのカラクリのかな?」
「こんばんはアルー。ごめんヨ新八、偶然腕を発射したら当たっちゃったアル」
「いや偶然じゃないよね、確実に狙いを定めた攻撃だったよね」
「ちっごちゃごちゃうるせえ眼鏡だな、どっちもいいじゃねーかよ」
「おおおいいい!なんでそこだけ標準語!?」
 舌打ちをする神楽にやれやれと嘆息しながら腕をカラクリに戻してあげた。
 最近知り合った天人の少女は、少々ガサツな箇所があるものの本当は心の優しい女の子だということを新八は知っている。新八とは何故かウマがあい、道で会えばすぐに懐かれた。
 今も何をしていたのかとか、一緒に遊ぼうと誘いをかけてきてくれた。
 年下の可愛い妹をもった気分になりながら、任務の途中だったので申し訳なく思い眉を下げ、神楽の誘いを断るしかなかった。
 そう言おうと思った時、ある事実に突き当たる。
 新八は恐る恐る神楽に問いかけた。
「神楽ちゃん・・・一人で来たの?」
「んーん、三郎と源外のジジイも一緒ヨ。あとー・・・」
 神楽の続く言葉に喉に堪った唾をごくりっと音をたて飲み込む新八の背中を、今度は覆いかぶさる様に優しく包み込んだ人物に邪魔をされた。
 そもそも神楽がこの場所に一人でいること自体もう少し早く疑惑を持てばよかったのである。
「逢いたかったよ新ちゃん・・・」
「銀ちゃんも一緒ヨ」
「あー・・・・・・」
 頬を淡く染め三十路まじかの大の男に頭を頬ずりされれば、真夏の夜でも身体が冷える。
 久々の再会に感動を分かち合いたいと願う相手に対し、昨日真昼間の屯所に忍び込まれ瑞々しい季節のフルーツをふんだんに盛り付けされた銀時お手製プリン・アラモーゼを差し入れされた身としてはできればご遠慮したかった。
 過激で有名な武装組織である警察に堂々と正面から忍び込まれたともあって、その時はやはり怒り狂った上司のとばっちりにあったことは記憶に新しい。
 ちなみに銀時お手製プリン・アラモーゼはとても美味しく頂いた。
 これだけの腕を持っているくせに何故この人はいつもプラプラしているのだろうか。
 銀時への好印象とは真逆に、疑惑が深まる新八だった。
「・・・坂田さんもいらしゃってたんですね」
「そんな他人行儀な呼び方よせよ新八。俺とお前の仲だろ?銀さんていつもみたいに呼んでくれよー」
「坂田さん。暑いので離して下さい」
「んもうっ新ちゃんたら熱いだなんてっ!むしろ銀さんはもっとお前と熱々の仲になりたいんだけど」
「いいから離せや天パ」
 銀時へのツッコミを放棄した新八に、銀時は名残惜しそうに溜息をつくと新八の前に手に握っていた物を差し出した。
「ほら、新八」
「えっ・・・・」
 差し出されたのは先ほど新八が美味しそうに眺めていた、ビニールの包みに覆われた林檎飴だった。
 羨ましそうに瞳を潤ませる横顔に惹かれ、ついつい買ってしまったものだった。

「いつも頑張ってる新ちゃんにご褒美」
  
 へらっと優しく微笑まれ、思わず頬を林檎のほうに赤く染める新八は差し出された林檎飴を遠慮がちに受け取った。
 自分の愚行を見られていたことに恥ずかしくなるものの、林檎飴を買ってくれたことにではなく自分よりも大人の男性から向けられた優しい眼差しに胸の鼓動が暖かく打ち鳴らした。
 今この時だけは職務を忘れ、ビニールを取りはずし一口齧った。
 甘く広がる味が今まで一番美味しく、そして何故か胸がかゆくなる恥ずかしさも沁みてきた。
 その理由が分からずとも、落ち着かない気持ちだということは今の新八にもわかる。
 物で釣られているようで酌ではあったが。
「あ・・・・ありがとう・・ござい・・ます」
 自分よりも大きな手に頭を優しく撫でられ、御礼は言えても素直に笑顔を向けることがまだできない自分の心が、目の前の人物よりもよけいに幼く思えた。

 射的で探し人と遭遇するのも、夏祭りが突如中断する事になるのもそれから間もなくである。
 
  
  






※       ※
>>Dear you お題
少しずつ 少しずつ
 
新ちゃんお誕生日おめでとう!

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