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例えば僕がテロリストで君がリアリストだとしたら

高新
高杉初登場回の夏祭りの話をありがちに捏造












※        ※


『・・・いいか志村、高杉には手を出すな』

 
 そう言っていた上司の声が脳裏に木霊する。
 けれど、もう――――


「妙な黒い犬が追っかけているなと思っていれば・・・」

 目の前に広がる光景に言葉を無くし、悠然と煙管を吸い煙を吐き出す片方の眼を包帯で隠している男の放つ異様な空気に中てられ、地面を赤く染め伏す冷たくなった同僚の上に滴る血まみれの刀の矛先がいずれは己に向けられるのでないかと思うと身体が全身金縛りにあったかのように動けなくなった。

「ずいぶんとまぁ、かわいい番犬だな・・・」

 くっくっくと嘲笑う高杉晋介の存在に、新八は脳裏で上司に答えた。

『・・・もう遅いです副長』と――――。


 
 
 自分たちのいる裏路地は緊張感で静まり返っているのとは逆に、表路地は夏祭りにきていた人々の逃げ惑う阿鼻狂乱の声で溢れ、暴れだしているカラクリ達と真選組達との抗争の騒ぎで一杯だった。
 今声を荒げてもきっと掻き消えるだろう。もしくはそうなる前に目の前の男に切られるだろう。
 浅はかな己の行動に、新八は後悔した。
 たまたま眼に入った時にはもう走り出していたのだから。
 
 夏祭りの見せ場で用意されていたカラクリが急に暴れだし、来席されていた将軍が狙われるという騒ぎが起きた。
 逃げ惑う人々の群れの中、二人の男だけが動かなかった。
 一人はよく見知った白髪の侍、そしてもう一人の人物に新八は大きな眼をさらに大きくした。
 白髪の侍はその人物を殴り飛ばしすぐに騒ぎの中心に走っていったが、倒れた男はそれからすぐに立ち上がり人目のつかない道へと姿を消していった。
 新八は考えるよりも身体が動いた。
 騒ぎの方角へではなく、今回の元凶であろう男の姿を追って――。

□   □

「ふん。どうした、怖くて声が出ないか」
 刀についた血を振り払い一旦鞘に収めながら、高杉は新八を眼から放さなかった。
 無意識に手を腰に差した刀に当てるが、身体の震えを治める効果などありはしなかった。
「ほう、一興試してみるか?」
 目に見えた実力差に高杉が嘲笑うと、新八は緊張で固まった顔を緩ませへらっと笑って見せた。
「ごめんなさいっ!」
 両手を肩までかざし謝った新八に、高杉は少し眼を広げた。
 実力差など新八の方がよく理解している。
 逃げ足には自信はあったが、高杉の刀の餌食になった同僚の敵討ちに挑むよりも新八はまず己の命を優先した。
(だって無理だもん。こんなん相手するの)
 これが真選組一隊士としてどうなのかとか、侍としてどうなのかと悩む所だが。
「ごめんなさいっ!僕、手柄欲しくってここまで来たんですけどどうやらお門違いだったみたいです。出直しますんでここは見逃してもらえませんか?」
 へらへら笑いながら苦しまみれに出てくる言葉をせめて噛まない様、新八は頑張った。頑張りどころが違うだろうと己にツッコミつつ懸命に噛まない様に務めた。
 その姿はまるで小さな愛玩動物のような頼りなさで、誰もが戦力を失うであろう。
 それは過激派攘夷浪士である高杉とて、例外ではなかったようで「くっくっく・・・」と笑い出しあっさりと背を向けた。
「いけ。俺は餓鬼を痛ぶる趣味なんぞねーよ」
「あ・・・ありがとうございます!」
 新八の全身の緊張が少し緩み、高杉の気持ちが変わらないうちにこの場を早く立ち去りたかった。
 敵に見逃してもらうなどと、なんて情けない事かと思いつつ姉の泣き顔を見るよりも姉や上司に怒られたほうが何倍もマシな気がした。
 冷たくなった同僚の事が気にかかるが、なるべく現場をこのままにしておいたほうが良いのだろうかとも考えてしまうあたり自分はすっかりこの職に影響されていると思い、新八はそんな自分に少し悲しくなった。
 
 なるべく相手の気配を感じ取りつつ、足を表路地に向けた時高杉は新八を呼び止めた。
「おいっ」
 新八が足を止め、振り返った瞬間――高杉は腰に差した刀を新八に振り上げた。
 ガキィッーン!!――刀が交差し、新八は己の刀で高杉の刃を弾き返し両者の刀は相手の命を奪うほどにはいかなかった。
 一瞬の殺意に反応していなければ、完全に危うかった。
 それでも高杉の胸は着物が少し切れ、新八の胸からは赤い色がぐつぐつと零れ落ち地面にもたれかかる身体を肩膝でついて支えた。
 新八は胸を探り、傷を確かめるがそこには何もなかった。
 ただ、林檎飴だけが出てきた。
 懐に大事に仕舞っていた齧りかけの林檎飴が見る影もない。
 ぐちょぐちょになり、赤い実が血のように滴り落ちる甘い果実の成れの果て。

 高杉はその姿を見つめ、己の胸の切り口を見やると再び嘲笑いだした。
「おい、餓鬼」
 新八に声をかける高杉に対し、不審そうに見つめ返してくる新八の姿にまた笑いが込み上げてきた。
 あの瞬間に垣間見せた少年の殺意に、高杉はどこか心地よさを感じたのだった。

 どこか尊い、そして鮮烈な光を放った少年の一瞬の輝きを。

「名前は何だ」
 名を問いただす高杉の瞳の意味が、新八には分からなかったがそれでも挑むように見詰め返して魅せる。
 ただ真っ直ぐに、眼をそらさず
「真選組副長補佐小姓志村新八です」
 その姿を見とめ、高杉は己の懐から銭を数枚出すと新八の元へ投げた。
 その銭を一枚拾い上げた新八は、顔を上げると高杉はもう背を向け歩き出していた。
「悪かったなせっかくの林檎飴を台無しにして。そいつで新しいのを買うといい・・・」
 新八を見る横顔が少し愉快そうに見えたのは、きっと気のせいだろうと新八は思った。
  
「・・・・またな、志村新八」

  
 新八はもう二度と会いたくないと心の底から思った。










※        ※
>>Dear you  お題
晋介くん新八くんお誕生日おめでとう!
新八の役名はこんなんです。さりげに林檎飴をかけてみたり
 

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