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フィクションの先行き

3Z銀パチ 出会い編捏造













※        ※

 夏休みも8月となれば、うなる様な暑さが続き真夏の炎天下にコンクリートが鉄板と化す。
 そんな暑さが続くと思えば突然の黒い雲、そして豪雨。
 コンビニにジャンプといちご牛乳を買いに出かけていた俺はとうぜん傘など常備している筈も無く、雨に降られシャッターの開いていない店の屋根下に避難。
 ついてないと嘆息し煙草に火をつけ買ってきたジャンプを読みながらしばしの雨宿りに乗じていた俺のもとへ、駆け足で近づく避難者が一人。
 全身ずぶ濡れの白いワンピースが華奢な線を描き、濡れ烏の黒髪と相まってなんとも艶かしい若い女だった。
 一時の避難場所に同じ所を選んだらしい女は、屋根下に潜り込むと安心したように一息つきそして俺の存在に気づくと遠慮がちな視線を送ってきた。
 別にせっかくのヒットポイント回復場所を独り占めしていたわけではない。突然の緊急事態に巻き込まれたのは何も俺だけじゃない女も一緒だ。こんな時は助け合うもんだろう。
 遠慮しなくてもいいのに。
 そんな気持ちで俺はあえて何も言わずジャンプを読むのに集中する姿を見せた。
 女は少し小さく会釈しその場に留まり、雨が止むのを待つことにしたようだった。

 やがて女は小さなバックからハンカチをとりだすと、足に跳ねた泥を拭きはじめた。
 手を汚れた箇所へのばす為に屈んだ際に襟が開いた胸元が覗き、雨の雫に濡れた白い柔肌と後もう少しで見えそうで見えない、でも見えるかもしれない膨らみに思わず(おおっ!)と期待を込めて見つめる俺。
 視線をジャンプから外し女のポロリに想像を膨らませていれば、すぐに女は俺の卑しい視線に気づき俺に目線を送ると同時に俺は何も無かったようにジャンプを読むフリをした。
 女はそんな俺に何も言わなかったが、さりげなく距離をとった。
 それに気づいている俺はなんとなく悲しくなった。
 
 未だに雨は降り続け、俺と女だけの不思議な空間が生まれた。
 ジャンプを読みながらも俺の興味は女にあった。
 しゃがんでシャッターに寄りかかる俺に対して、女の背はまっすぐで黒い大きな瞳は降り注ぐ雨を見つめ続ける。その綺麗な立ち姿に俺は見蕩れた。
 おそらく俺よりも年下、化粧栄えのない顔は20前半とも読めるがきっともっと若い。
 女の実年齢を考えながら煙草を吹かしていると、わずかな風が煙とともに凪がれ女のもとへ辿り着く。
 そのヤニ臭さを含んだ煙の香りに女は辛そうにくしゃみをした。
 いつもは気にならない筈が、女のその姿に申し分けなく思った俺は仕方なしにポケット灰皿に煙草を押しつけ片付けた。
 辛そうの堰をしていた女は俺の動作に気づき、息を整えるとやがて初めて話しかけてきた。
「あの・・・・・・・」
 初めて聞く女の声に聞き入るよりも、まず話しかけられるとは思っていなかった俺はえらく驚き何も言えなかった。
 そんな俺の姿にまた遠慮がちながらも、小さく微笑んだ女はまた口を開いた。
「あの・・・・・・・・・ありがとうございます」
 女は礼を口にした。誰に?俺に??
 あぁっ?と思わずついた口調に少しびびりながらも女はたどたどしく言葉を続けた。
 恥ずかしそうに頬を染めた仕草が可愛らしく見えた。
「煙草・・・・ありがとうございます」
 ようやく女が言わんとしていることに気づいた。
 彼女は俺が煙草を消してくれたことに礼を述べているのだ。
 喫煙者である俺に煙草の煙で辛そうにしている自分へ気を使わせてしまったことに“すみません”とか、“ごめんなさい”とかよりも、“ありがとう”という言葉を選んだ女に俺は気恥ずかしく思いながらも嬉しくなった。
 そんな俺の照れを頭の後ろをガシガシ掻く仕草でごまかしながら、俺は彼女に話しかけた。




 あれから1ヶ月がたち夏休みが終わると、俺に待っているのは夏休みボケと辛い2学期の始まりだった。
 俺はクラスを持っていないが3年の現国を教科にしているので、この時期の3年生はいわば戦場ともいうべき雰囲気を醸し出している。
 この仕事について早数年たってもなお、その雰囲気に苦手な俺は逃げるようにあの青空を眺めながら夏休みの時に出会った女の事へ思いを廊下で馳せるのであった。
 あの後雨はすぐに止んでしまったが、その間に話した会話や女の表情が忘れられなかった。
 あんなわずかな一時をいまだに忘れられず何度も思い返している時点で完璧に自分はどうしようもない位置に立たされているのではないだろうか。
 それほどに自分の中に沁み込み、別れ際に女が残した言葉と去り際に見せた笑顔をもう一度見てみたいと望む自分がいる。
 できればその微笑みは別れ際に見せるのではなくて、自分の隣で見せて欲しいとか。 
 いっそのこと女を探し出してみようか。
(あーちくしょう・・・)
 名前ぐらい聞いとけばよかった。
 ついでにメアドとかケー番も交換したり、それとどこに住んでいるのかとか、彼氏いるのかとかスリーサイズいくつなのかとか・・・
 そんなことを延々考えに耽りながらすれ違う帰りの生徒達に挨拶していく。
 そういえば彼女は去り際に妙なことを言っていた。
 もしかしたら会話の流れで自分の職業のことを話したのかもしれないが、そんな記憶が俺には無かった。
 ということはもしかしたら、彼女は俺の事を知っていたのだろうか?
 あの時、彼女が残した言葉はたしか――――


「さようなら、先生」


 俺の心臓は面白いぐらいに跳ね返った。
 すれ違った人物から彼女と同じ声と台詞がしたからだ。
 
 俺は急いで振り返った。そのつもりだ。
 実際はゆっくりだったかもしれないが、とにかくその時間が長く感じたし短くも感じた。
 彼女と同じ声と台詞を残した人物は、何故か学校の制服であるのセーラー服を着ていた。
 ついでに濡れ烏の黒髪はきつく三つ編みにしばられ芋くさかった。ついでに地味な眼鏡をしていた。ん?眼鏡?
 
 それでも眼鏡の下から俺を映す瞳は真っ黒な大きな眼で、ついでに言えば―――
 
「・・・・・あぁっ?」

 
 あの時と同じ微笑をしていた。

    
  
 
 
  


  
※       ※
>>Dear you  お題
パチ恵はたぶん高1ぐらい 
眼鏡は雨に濡れて見えづらかったのでつけてませんでした。という話

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