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万事屋銀新♀
【い いわゆる青い春というもの】続きっぽい
※ ※
――失敗した。
銀時は心の底から、後悔したのだった。
□
「やっぱ送ってくかー?」
「大丈夫ですよ、まだそんなに遅くないですし」
笑顔でやんわりと断る新の声、少女が微笑むたんびに耳元に小さく咲く華の簪がキラキラ輝いた。
その可憐な光景を目にするからこその銀時の男としての申し出なことに、新は気づかない。
遠くでしつこいそのやりとりを見守る神楽と定春は呆れた。
普段と変わらぬ装い。
けれど、小道具一つ付け加えるだけで、今の新は夜目でも判る。
前から見ても後ろから見ても、横から見ても華奢な少女である。
新には悪いが、些か・・・否、全面的に頼りない。不安で堪らなくなる。一人で帰らせたくない。
帰り支度をすませた新をしばし見詰め、銀時は深い溜息を吐いた。
「やっぱ送ってくから。ちょっと待ってろっ勝手に帰るなよ!」
はっきりと言い残し、急いで踵を返し原付バイクの鍵を取りに行く銀時に新は不満気に声を上げた。
モタモタしている内に新が帰ってしまわない様、焦りながら机の引き出しから鍵を取り出した銀時は二人分のヘルメットも忘れぬようにと手にする。
玄関に戻ってくる銀時を大人しく待っていた新の姿に、ひそかに安堵する。
眉を困ったように顰めている新は、不貞腐れたように唇を尖らせていた。
「んな顔すんなよ、ほらっ」
差し出したヘルメットを素直に受け取る新に苦笑し、いつもの癖で新の丸い頭を撫でようと腕をあげたが思い留まる。
そのまま何でもないかのように腕を下ろすが、新はそれを見逃していなかった。
「神楽ァー戸締りしっかりしとけよ、ちょっと新送ってくるから」
「送り狼になるなヨ」
ブァーカッとやりとりを交わす銀時と神楽の傍ら、新は受け取った自分用のヘルメットをしばし見詰めていた。
ポツンと佇む新は、ジーッとヘルメットを凝視する。
見詰めすぎて穴が開いてしまいそうだ。
徐に頭の簪に手で触れてなぞってみる。そして決心したかのように、顔を上げた。
「・・・銀さん」
「ん?」
振り向いた銀時は、お腹にヘルメットを押し当てられた。
驚いて目を見張る銀時に、新は微笑んだ。
「私やっぱり一人で帰れます。心配してくれてありがとうございました」
「アァ!?」
「私は大丈夫ですから、神楽ちゃんの傍にいてあげてください!それじゃあお疲れ様でしたっおやすみなさい!」
「オイッこら!?ちょ、ちょっと待て新ッ!」
銀時の静止の声が、万事屋の玄関から大きく木霊する。
新は階段を降りる速度を緩めずに、万事屋が見えなくなるまで走っていった。
呆然と見送る形になった銀時は、やがて頭を抱える。
「・・・意味わっかんねーんですけどぉぉぉ?!!」
自分に送ってもらう事がそんなに嫌だったのか、そんなにありがた迷惑だったのか。
目の前でああも堂々と拒否されてしまえば、怒りや落ち込むこと以上に勝るのは困惑である。
新の性格を考えれば、理由もなしに相手からの好意を断ることはないが、そもそもその理由が分からなかった。
小さなスナックの二階から響く銀時の絶叫に、町行く人が何人か見上げてきたのだった。
日が暮れた夜の町は、人の出入りがまだまだ多い。
この時刻ならば、女の一人歩きは町のあちらこちらに見かけるので平気かもしれないが安心はできかねない。此処はかぶき町、江戸中からならず者が集まる巣窟でもあるのだから。人気の無い薄暗い路地裏などは特に避けた方が、女だけでなく子供も男も身の為である。
新の腕ならばそこらのゴロツキなど敵ではない――が、今の外形は男の気を惹く。
その元となる原因を作ったのは己であることはこの際棚に上げる。
脳ミソに浮かんでは消えていく、禄でもない最悪で下種な妄想を駆り立ててしまう自分自身に吐き気と怒りが込み上げて来て堪らなかった。
所在の無いイラつきでガシガシ頭を掻き毟っていると、背中から神楽が声をかけた。
「あ~あ、フラれてしまったアルな」
呑気な声につい睨みつけてしまう。
神楽はそれをモノともせずに、両手を軽く上げ深々と溜息を零した。
「まあ元気だせヨ、ジョニー。またイイ女がきっと見つかるサ」
「・・・ジョニーって誰よ」
「しかし、マリアも罪深い女アルぜ。男の誘いを断っちまうなんて、そんなにイヤだったのかね。なあマイケル?」
「だから、マリアとマイケルって誰だよ。つーかお前は今何キャラなんだ」
しみじみと考え深げに一人頷く神楽に付き合いきれないと、銀時は適当に茶々を入れた。
神楽はさも洋画ドラマ宜しくと言わんばかりの驚きを表現し、さらに銀時をイラッとさせた。一体どんなドラマを見たのかは不明だがテレビに影響されやすい夜兎族の現代っ子であった。
「おやおやっ!お前はまだ気づいてないって言うのかいロザンナ!?あの娘の様子を見ていれば、分かりやすいって言うのに「お前いいかげんしないと殴んぞ」やれやれ・・・。仕方がないな君は!」
「仕方がないのはオメーだろ。何知ってるってんだ」
早く核心を吐きやがれと、神楽の遊びに付き合う。
持っていたヘルメットはどうしようかと、両手で弄ぶ。
そのヘルメットを指差した。
神楽の指だ。
「ソイツを頭に被れば、頭に挿した簪は潰れてしまうアル」
「・・・・はぁ?」
思わず零れた声に、神楽は生意気な女の眼で嘲笑って見せた。
ヘルメットを受け取った時の新が、しきりに頭の簪を気にしていたことを。
それ以前に、その簪を銀時自らの手で頭に挿して貰った時の新の笑顔を。
あの時、後ろを振り向いていれば分かりそうなものを―――。
「覚えておけよ銀ちゃん。女はなぁ好きでもない男の簪ならとっくに頭から外してるアル――でもその逆だったら。心底嬉しかったら、何が何でも、たかがヘルメットを被る為だけであっても絶対にその簪を外したくないメンドクサイ生き物なんだヨ」
お分かり頂けただろうか――?
ニタリと笑みを浮かぶその顔が、どこかで身に覚えがある気がして腹立たしくあった。
ヘルメットを指差していた先が、いつの間にか銀時自身へ向けられている。
突き動かされたのは、頭が先か。それとも心か。
溜息を吐いて、ヘッと笑う。
死んだ魚のような目はいつもと変わりないが、包み込む雰囲気は飄々と余裕ができていた。
「神楽ぁー定春ー、戸締りしっかりしとけよ」
さっきと同じ台詞を言い残し、銀時は戸を閉め外へ出て行った。
二人分のヘルメットを持ち。
見送る神楽は、やれやれと顔を振った。
洋画ドラマのモノマネというよりも、彼女の仕草はどこか銀時に似ている。
「たくっ、世話が焼けるアルぜ」
「わんっ」
銀時のあの様子ならば、きっとすぐにあのダメガネに追いつくことだろう。
神楽はそう確信して、言われたとおりに戸締りをする。
下からバイクのエンジン音が聞こえた。
※ ※
>>postman お題より
続きます。
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