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恋煩いが罹患に至るまで

3Z銀パチ
【フィクションの先行き】 【その諸恋、粗悪品につき】のシリーズ 銀八side 

*パチ恵は高1の二学期らへん











※          ※


――「さようなら、先生」

 聞き覚えのある声に心臓が力強く鷲づかみされた。
 振り向いたそこには、やはり脳内に過ぎった人物が立っていた。

 逢いたかった女。

 ずぶ濡れだった白いワンピースは清潔なセーラー服に、濡れ烏の黒髪は芋い二つのお下げに、あどけない幼さと危うさを残した黒真珠のような大きな瞳には地味なメガネが。

 悪戯が成功したような眼で見つめられ、(ああ、そうゆうこと)と納得せざる得ない状況だった。
 若い若いと思っちゃいたが、まさか―――と溜息を吐いた俺に笑い声がした。小さな、耳に心地良い声だった。
 あの雨の日に交わした会話の中で、何度も見たあの笑顔で。
 少し前まで思い浮かべていたあの、もう一度見たかった笑顔で。

(ああ、そうゆうこと)

 女の笑顔に俺の脳内はもう一度改めて確信し、一瞬で脳から心臓にかけて痺れが起きたかのような現象に見廻れる。ここ近年全くのご無沙汰だった嘗てない衝動、そして開眼。
 呆然と立ちすくむ俺に、女は小首を傾げた。
 華奢な肩に垂れたお下げが小さく揺れる。
 俺にはその小さなしぐさが初々しい少女の姿にも見えるし、男の反応を試す一丁前の女の仕草にも見えた。

 今すぐ手を伸ばして、あの細い身体を力ずくで抱きしめたい衝動に駆られる。
 場所も立場も気にしなけりゃいけない現実に秘かに感謝した。






――『高校教師、教え子にわいせつ行為』『女子高生に交際迫る』

 ニュースやネット上の衝撃事件のトピックスを、今までは他人事のように「俺も気をつけよう~」程度に思っていたことが、今はとても身に染みるのである。
 やっぱりマズイか。マズイよな。てゆーか、マズイ・・・のか?
「はぁー・・・・」
「・・・何ですか、そのため息」
 準備室内の掃除をしていた志村妹が、不思議そうに眉を八の字に曲げた。
 長い睫と大きな黒い目玉が、俺を真っ直ぐ見てくる。
 地味なメガネ無しの素面が実は好みなのだが、メガネ有りも結構イケると思った。
 知らなかった自分をこの歳で再発見である。 
「知ってるかー志村妹。先生なぁ、実はメガネっ娘萌だったみたいよ?」
「いえ、知りませんでしたし知りたくもなかったです。さっちゃんさんが聞いたらとても喜びますよきっと」
「なんでそこでアイツがでてくんのかなぁもう。何もしかして妬いてんの」って言ったら、ものっそい冷たい目で見られた。ほんと女って難しいわ。

 今いる準備室は、元は国語で使う教材が仕舞われていた小さな教室だった。生徒の行き交いが多い中央廊下と違い、準備室のある廊下はなんとも静かである。他の先生たちですら滅多に使うことのない準備室は見放されたようにポツンと其処に存在し、サボるのも昼寝するのも打ってつけだ。
 好き勝手やりすぎるのがたまに傷だと実感する頃には、小テストの紙束やくしゃくしゃになったお菓子の袋や煙草のカスで山盛りになった灰皿ですっかり散らかり放題である。
 今までは適当に片づけていたが、この年の夏に出逢った一人のメガネっ娘に今現在すべての掃除を任せている。
 口うるさいがなんやかんやで世話焼きなこの娘の性分に感謝であり、そんな小さな優しさに単純だけどますます俺は惹かれていた。
 こうでもしなければ、3年生の現国教科を担当している俺が、まだ一年生の志村妹と接点持つきっかけなんぞ無いに等しい。


「ほい、ごくろーさん。あんがとね助かったわ」
「・・・たまには自分で掃除してくれるともっと助かりますけどね」
 生意気なお言葉だったが、帰りに俺の原付バイクで送るといつも嬉しそうに笑ってくれる。
 こちらこそ小っちゃいおっぱいがいつも背中に当たるのですが毎度有難うございます。
「送って下さりありがとうございました先生」
「ん。じゃーな、オヤスミ。また明日も宜しくね」
 さり気無く丸い頭を撫でることも忘れない。
 本当はその赤く染まった林檎のほっぺを撫でたいというのが本音。

「・・・おやすみなさい・・先生・・・・・」

 少しずつ少しずつ―――可愛いあの娘のハートに俺の気持ちをうつしていこう。
 学校の先生としてでない俺の存在を、魅せていく。

 俺には確信がある。
 自惚れでない確信が。





 あの年頃にありがちな大人の男への憧れを利用させてもらった。

 少しずつ育てていくつもりだったが、如何せん。あのメガネっ娘は中々にやりおる。
 無意識に男を誘う表情が、将来を期待させるし俺を不安にもさせる。

「先生とさー、“恋愛”してみない?」  

 放課後の夕暮れ、憂いを浴びた悩ましげなあの姿を目にすりゃあ、誰だって我慢できるわけが無い。
 地味で芋お下げなメガネもやはり、一人前の女だった。
 大事に育ててやりたがったが、こんな俺みてーなマダオが捕まえちゃってごめんね。
 俺が逃がす気がないことを本能で理解している志村妹は観念し、俺の手を取った。

「きたない大人・・・」
(不安そうなこの上目づかい啼かしてやりてーなおい)


 やっぱり俺はマダオだ。
 まあ、それはさておき。
 とりあえずは手始めに、もっと俺を知ってもらおう。

 その代り、可愛い君のことをもっと教えてください。
 何が好きですか?嫌いな物はなんですか?メアドとケー番教えてくれませんか?スリーサイズはいくつですか?天パの男についてどう思いますか?今までに俺以外の男と恋愛したことありますか?(たぶん処女だろうからそれはないだろう)

 キスしていいですか?ベロもいれていいですか?えっちもしていいですか?


 あと、恋人っぽく――――今度デートしようか。















※          ※
>>postman お題より
あともう二話くらい

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