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万事屋銀新♀
*紅桜編その後を勝手に改造
*これまでの万事屋の銀新♀とはちょっとちがうシリアス
単純、かつ不可解―
※ ※
土方は走った。
前を走るひったくり犯へ向かって。
最近起こった大きな捕り物を逃し、そして今目の前で起こっている事件さえも捕り逃したとあっては警察の面子どころか真選組の面子さえもドロドロに汚してしまうことになる。
それだけは何が何でも阻止したい。
「おらああああっ!!待ちやがれええええ!!!」
「ヒィィ・・・!」
さも恐ろしい顔で全力疾走する鬼のおまわりさんに恐れたひったくり犯は、捕まってなるものかと必死に走った。
足が余計に速くなったひったくり犯に小さく舌打ちした土方は、巻き添えを食らわぬ様に隅っこに避難する町の人々を横目で見つつ頭の中でこの先の通路や犯人を捕まえる手段を幾つか算段していく。
その時、足の速い犯人の目の前に若い娘が立ちふさがった。
「おいっ!?危ね・・・・っ!!」
土方の叫び声と娘へ突進する犯人の勢い、どちらが早かったかは誰もわからなかった。
しかし、それよりもさらに早く―――
引ったくり犯が宙に飛ぶ光景に、眼を奪われた。
まるでスローモーションのような、ゆっくりと動く静止画のように
犯人が吹っ飛び、そして地面に派手に落ち何回か転がり、やがて静けさと共に止まった。
ピクピク痙攣する様はまるで、地上に打ち上がった魚介類のようだった。土方は遠巻きに犯人の生存を確認すると、口に煙草を銜え火をつけ煙を吸い吐くと、改めて若い娘へ視線を向けた。
小さな華が散る模様の薄い水色の着物に、短めの黒髪に映える白い花のコサージュをつけた若い娘はその可憐な姿からは想像できない力を発揮し逃走中の犯人を撃退したようだった。
それを裏付けるかのように、両手には武器代わりの箒を握っていた。
少し乱れた裾を手直し、持っていた箒を近くにいたおばさんに頭を下げながら返す。
「ありがとうございました。すみませんでした、急に箒をお借りして・・・」
「いいのよいいのよ!それにしてもアナタ、強いのねー!」
豪快に笑うおばさんにつられて頬を真っ赤に染め微笑む娘は、土方に顔を向けるとすまなそうにはにかんだ。
普段とは違う装いに、土方は顔を見ても暫くはきっと分からなかったかも知れない。
娘の顔には見慣れたメガネがかかっていた。
やがてパトカーが到着し、真選組の隊士が犯人を押えると同着した沖田が土方の傍に来た。
小さくなる娘の背中を見送る土方に首を傾げる沖田は、つられて娘へ視線をなげる。
どこからどう見ても、普通の町娘の背中だった。
「どうかしやしたんですかぃ土方さん」
「いや・・・・」
煙草を一息吹かした土方は、意識を仕事に逸らしパトカーに向かった。
着物一つで、雰囲気をいとも簡単に変えてみせる女という生き物を恐ろしいと思いながら―――。
□
志村家に帰宅した新は、そのまま道場へ足を向けた。
父の形見である刀を両手で支え、刀の重さを感じる。
ズッシリとしたその重さは何も刀だからだけではない、 この刀を打った見知らぬ刀鍛冶の想い、そして侍だった父の想い―――。
この刀はまぎれもない父の刀だ。
今の新にはそのことが強く胸に実感することができる。
刀の結び目を解き、鞘から抜く。
静かな道場内に、キィーーンと音が小さく響くのを耳に伝えながら新は鞘から抜いた刀身を真っ直ぐ前に突き出したままの姿勢で止まった。
そして長い間、その姿勢でいると小刻みに刀を伸ばす手が震えてきた。
重い刀を支えきれない少女の細腕の限界だった。
その事に、どこか可笑しく、どこか自重気味に、どこか安心したように小さく笑って見せた。
伸ばしていた腕の力を緩めると腕の痺れをごまかしながら、刀を鞘にゆっくりと戻す。
その合間に様々な記憶が新に蘇った。
初めて刀身で戦い、木刀とは違う重さと切れ味に戸惑い、生身の腕を切ったときの感覚。
忘れることのできぬ戦いの記憶だった。
綺麗に手入れされた刀に映った新の姿は、少女の格好だった。
薄く紅の引いた唇だけが、本来の新の生き方であり現実だ。
新は最後に一息つき、刀から完全に己を隠した。
妹の可憐な佇まいと不恰好な刀の光景に、お妙は何も言わぬまま
影から見守った。
□
志村家に養生中の銀時は、毎夜繰り広げられる闘争劇、というか逃走劇に戦意を退けられグッタリと布団に横たわっていた。
行き過ぎた看病に恐れ逃走を図るも、そのたんびに何らかの犠牲を払い連れ戻される。
治りかけるはずだった怪我は、何故か増えていく一方だ。
ついでに言えば、お腹も減った。
あんなもの卵粥で或る筈がない。暗黒物質だ。
「・・・・なんか、疲れた」
身も、心も。
このままふて寝してしまおうと眼を閉じると、気配に敏感な銀時は廊下を音をたてず静かに歩く足音に気づく。
瞼を閉じたまま伺うと、その気配は銀時の部屋の前で立ち止まるとゆっくりと襖を開けた。
「・・・・・・・銀さん?」
小さな囁き声に、銀時は口元を緩め瞼を上げると声の主である新を迎えた。
「おう、起きてるよ」
「良かった。粥作ったんです、良かったら・・・ああちゃんと私が作ったものですよ」
「食べる食べる!いやーマジ助かるわ。俺、これで生きてる実感が湧いてくるわ」
「そんな大げさな。姉上も神楽ちゃんも、本当に銀さんを心配してるんですよ?」
普段がアレだか。
最後に思ったことは言葉にせず、そっと視線を逸らす。
「おーい、現実から眼逸らしてんじゃねーぞコラ」
たくっ・・・と銀時は呆れ、新お手製の粥を掬い息をフウフウすると口の中に運こび咀嚼する。
味気ない筈だが、自然と美味しいと思えるのはやはり新が作ってくれたモノだからだろう。
空っぽの胃の中まで、暖かく満たしてくれる粥に満足げに溜息をつくと何回も口の中に運び味を噛み締める。
「ハァ・・・やっぱ、うめーな」
「ぁ・・・ありがとうござます」
新は頬を淡く染め礼を言うと、元気に粥を食べる銀時の姿を優しく眺めた。
あっという間に空になった配膳を片付ける新を眺める銀時に、新はお湯を這った桶にタオルを染み込ませる。
何も言わぬ動作にここ数日で馴れている銀時は、着ていた寝巻きの紐を解き脱ぐと、銀時の背中を暖かく濡れたタオルで新が拭いていく。
広く傷だらけの背中を拭く新の掌のぬくもりに、銀時は眼を閉じる。
この心地よさに、このまま眠ってしまいたい。
そんな誘惑に負けそうになり、船を仰ぐ銀時に新はくすりと笑った。
「銀さん、背中拭き終わりましたよ」
「・・・んー」
答える返事も夢の中にようで、新はやれやれと溜息を零し座っていた位置を銀時の正面に移動すると、銀時の上半身を拭き始める。
怪我のせいで満足に湯船にも浸かれない身体だからこそ、せめて濡れタオルで拭いてやろうと思っているのに肝心の銀時は眠たそうにしていた。
暖かい体温に眠気を誘われる銀時は、己よりも小柄な新の姿をぼんやりと見おろした。
数日前からずっと、新は少女の格好だった。
可愛らしい着物と髪飾りをつけた新の姿は年相応であり、銀時はいつもカメラに抑えて置きたい衝動に駆られる。
が―――――。
「新ちゃーん」
「はいはい、何ですか銀さん」
「こっちおいで」
「え―――きゃっ」
小さくあがった悲鳴はすぐに銀時の腕の中に書き消される。
上半身裸のまま新を抱きしめているこの光景にもしも魔王である姉やもう一人娘に知られようものなら、己は墓の中行きであろう。
そんな恐ろしい未来に震えそうになるが、腕の中の少女はもっと震えていた。
銀時は溜息を吐き、少女を労わる様に丸い頭を撫でるとぽんぽんと背中を優しく叩く。
「よーしよし」
「ぎっぎぎぎぎぎん、さ、ん?」
「いい子、いい子」
「・・・なんですか。一体何なんですかこれ」
驚きで震えていた声はすぐに呆れたような声をだした。
そのことに銀時はふっと笑うと、頭を撫でる掌はそのままに新を優しく抱きしめると赤く染まった耳に口を寄せた。
「・・・・・あんがとね、新」
「がんばったな・・・・・・・だから、もう」
ゆっくりと紡がれる言葉に、新は両腕を銀時の背中にまわししがみつく。
そんな幼い仕草が愛しく、もう一度優しく力いっぱい抱きしめてた。
「大丈夫だから・・・な?」
銀時の胸に顔を当てた新は彼の鼓動を耳に入れ、大きな瞳からボロボロと涙を次から次へ、蛇口を捻ったかのように涙を流した。
華奢な肩を震わせ声を押し殺す新の、この見慣れぬ着物姿は彼女なりの必死さなのだろう。
年相応の娘の格好をすることで、血なまぐさい戦から現実へ帰ろうとする心の糸を安定させる為の無意識のことだった。
戦の経験の無かった齢16の娘にとって、刀で戦い、腕とはいえ生きている人間を斬った。
その現実は誰にも図りえることはない衝撃と経験だった。
己がとっくの昔に経験した事を、新は今経験している。
どうか、忘れないで欲しいと思う己は正しいのかどうかわからない。
だが、想う。
どうか、どうか――――。
「おめーはやっぱ、やればできる子だったなー」
「・・・・なんすか、もう。ぐにゅううっ!」
「我慢しろ。今これしかねーんだから」
ぐずぐずと鼻を啜る新に苦笑した銀時は、顔を上げさせ近くに投げ捨ててあった自分の寝巻きで顔を拭ってやる。
文句を言えずそのままされがままだった新は、顔を上げると銀時に言った。
涙を零すことで、胸の中にある気持ちが鮮明になったような気がした。
「・・・・銀さん」
「んー?」
「私、人を斬ることが怖いです」
――でも、と。
「でももっと怖いことは、目の前の人を守れないことです」
ゆっくりと銀時の腕の中から放れ、まっすぐ見据えた。
腕の中にいた少女は、もう新しい表情をして魅せていた。
「あの時、貴方を守れた。私は、自分が侍でよかったと今ほど思えたことはありません」
「侍であることが私の誇りです」
真っ直ぐな瞳が、銀時にはとても眩しかった。
一つ零れた涙を親指で拭ってやる。
ひた向きなまでの瞳はきっと、銀時の見る視線を軽く跳び超えた世界へ向けているのだろう。
愛しい少女の成長に嬉しさを思う反面に、どうか――と想う。
その飛び越えた世界も、その飛び越える瞬間も
その時、その隣にいるのが己で在って欲しいと。
そんな我侭な欲は、愛しさ故か
それとも男の性なのか。
銀時には分からなかった。
※ ※
>>postman お題より
正直、改めて書き直したい・・・だめだねむい
いちゃいちゃさせたいのになんでこの二人はいつもいちゃつかないんだなんでなんだこんちくしょー・・・。
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