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みんな学生シリーズ 坂田→パチ恵 土←パチ要素有
設定*【エースと恋に落ちた少女】 【下手な小芝居の舞台裏】 【り 理由を探して3時間】
VD話*【こ これから突撃するので心の準備をお願いします】 【よ 余分な手作りは処分】 WD話*【わ わたしを蕩かす三つの法則】の続き
※ ※
「好きです」
壁越しから聴こえる声に、衝撃が走る。
その声の主には一切の迷いがなかった。
いっそ清清しささえある。
迷いが吹っ切れた、綺麗な声だった。
暗く沈む夕日が室内の光りも連れ去り、代わりに訪れる暗闇の中でただ立ち尽くした。
坂田は、少女の恋の行方へに何もできなないまま動けなかった。
ただ、立ち尽くした。
□
――真新しい4月の季節
緊張と期待の入り混じった表情で歩いている新入生たちを横目に白い原付のべスパが通っていく。
運転する銀髪頭の男とその後ろに座る芋お下げのメガネっ娘という、妙に目立つ二人組が自分たちと同じ制服を着ているともあれば、初めて見る新入生たちにとって自然と眼を奪われる光景である。
同じ学校の生徒達から浴びせられる視線に、坂田はまんざらでもなく。
坂田の腰を両腕で囲いギュウと背中に抱きついているパチ恵の姿を、新入生の男子諸君によく見えるようわざとスピードを落としてみる。
急に緩くなったスピードに、パチ恵は不思議そうにくりくりの黒い大きな瞳で坂田を見上げた。
坂田はパチ恵の視線に、にやりと笑みを上げる。
「こーんなにいい天気だと、学校サボってどっか行きたくなるなー!」
エンジン音に掻き消されぬ様に、声を上げる坂田の声には笑みが混じっている。
呑気な声が可笑しくて、パチ恵もつられて笑った。
春先の風はまだまだ冷えていたが、太陽の光りは温かく青空が広がり気持ちの良い季節だった。
真冬ではかなり寒そうだった制服のスカートに、可哀想なくらいガタガタ震えていたパチ恵だったが今のこの季節ならばそんな気配が感じず、坂田は内心ほっとしていた。
パチ恵は知らない。
彼女の笑い声が坂田の心を穏やかにし、満足させることを。
気分が良かったつかの間の時間も、目の先を歩いている集団を見た瞬間に坂田は眉を顰め内心舌打ちをした。
嫌そうに溜息を大きく吐くと、パチ恵もその見慣れた後姿たちに「あっ」と声を上げた。
シカトしても良かったが、ゆっくりと原付で近づきながら声をかける。
「よおー」
「あっおはようございます、坂田の旦那パチ恵ちゃん」
「おはようございます旦那方。朝から見せ付けてくれますねぇ」
後ろへ振り向いた沖田は坂田の身体にすっぽり隠れてしまっているパチ恵に対して、からかいを混じりながら挨拶した。
沖田のからかいに気づかなかったパチ恵は、坂田の後ろからニッコリと微笑を向け、山崎と沖田の他少し前を歩いていた近藤にも礼儀正しく朝の挨拶をする。
「おはようございますっ皆さん」
「おはようパチ恵ちゃん!ところで今日はお妙さんはどこかなっ!?」
「・・・あ、姉上は九兵衛さんと一緒に後から来ますよ」
此処にいない愛しい女性の姿を探す近藤に、パチ恵は若干引きながら答えた。
その勢いのまま姉に突進しなければいいが――パチ恵はそう心配した。
近藤の愛情は深すぎてどうにも抑えが利かない。
その時、パチ恵はようやく近藤の隣に土方の姿にいることに気づいた。
――しかし、そこで急にスピードが上がる。
勢い良く早さが増した運転に驚き、パチ恵は慌てた。
振り落とされないよう坂田に掴んでいる両腕に力を入れ、抱きつく。
「ちょっっっ坂田先輩っ!?」
「パチ恵ー、早くいかねーと遅刻すっぞー」
いつもと変わらぬ気の抜けた声で先を急かされ、あっという間に土方達の姿は見えなくなっていく。
時間は十分まだ間に合う筈である。
後ろに座っているだけのパチ恵には、運転手の意に従うしかしかなったがそれでも顔は後ろへ向いていた。
そんなパチ恵を横目に、坂田は学校へと向かった。
つまらぬ嫉妬と哀れな位の独占欲を隠したまま。
脳裏に蘇る先日の記憶を辿りながら―――。
□ □
『好きです』
アイツの声が今も消えない。
あの時、自分はいつのまにか騒がしい部屋から消えていたアイツを探していた。
偶然に聞いてしまった声に、心がザワザワ騒ぎ出す。
手足に震えが走り、ドス黒いモノが胸から、腹から、心臓から、喉から脳ミソへ突き破り目の前が真っ暗になった記憶だけが残っている。
あのままでいたら、自分は何をしでかすか分からなかった。
それだけは今も自覚している。
それを掻き消したのは、彼女の声だった。
『好きです。私・・・・・・・・・・先輩の野球が』
『へっ・・・?』
間抜けな憎っくき男の声が普段の姿とはかけ離れ、きっといつもなら馬鹿笑いしていた筈だがこの時はさすがの自分も内心『んん?』と肩に張っていた力がガクッと崩れた。
胸が太鼓打ち、息を潜めて続く言葉に耳を必死に傾ける。
『私、部活に打ち込んでる先輩の姿が格好良くて好きです』
『・・・・・あっ、うん。そ、そうゆうことか。そうゆことね。そうか・・・・あーありがとう?』
『はいっ!甲子園頑張ってください!』
お先に失礼しますとそのまま部屋を後にする彼女の声が消えた。――と、同時に腰が抜けズルズル壁に崩れ落ちる自分。そして、壁の向こうできっと同じように脱力しているであろうあの憎っくきマヨラー。
かなり焦った自分が無性に恥ずかしかった。
しばらくそのまま動けないくらいに。
そして、段々ムカついてきた。あのとぼけ芋お下げのダメガネに。
マジ告白かと思って心底驚いたが、結果的に少し外れた事に喜ぶべきであるがちょっと腑に落ちなかった。
アイツは何故、あんな言い方をしたのだろう、と。
認めたくは無かったが、アイツがどれだけあの男を見ていたか知っている。
だって、それだけ俺もアイツを見てきたからだ。
あの桜の下で、アイツがあの男に恋焦がれた瞬間を俺は目の前で見ていたからだ。
真っ直ぐでひた向きな目を、横から見ていると叶えてやりたくもなるがそこまで俺はお人良しじゃないのでアイツがどれだけあのマヨラーを見ていようが、あのヤローはクソヤローなので俺は当然認めるわけが無かった。
めちゃくちゃに邪魔してやろうと、あの日俺が決心したことをアイツは当然知る由も無い。
手始めに、彼女を無理やり掻っ攫い自分とこのマネージャーにさせた。
そこからが、始まりだった。
□ □
坂田は思いに耽っていたが、誰もそのようには見えなかった。
いつもと変わらぬだらけた姿で、剣道部道場の綺麗な床に寝そべっているからである。
その様子に、真面目な剣道部マネージャーは溜息を零した。
「坂田先輩ちゃんとして下さい。それじゃあ新入生の子たちが呆れますよ」
「だーいじょーぶだよパチ恵ちゃーん。きっと、奴らは俺の背中から学ぶべき事を学びでっかくなるさ」
「そうですね、ちゃんと背中で教えてくれてますよね。こんな先輩になっちゃいけないなって。あと天パになっちゃいけないなって」
「・・・何なんなのそんな声だしちゃって。怒ってんの?つーか、最後の関係ないよね。天パ関係ないよねェェェ」
ハイハイと軽く流すパチ恵は、坂田を起こそうとするがビクともしない。
己よりも大きな体躯に奮闘するパチ恵を、本人は心無い応援しながら起きようとする努力もしていなかった。
先に「もー!」と根を上げたパチ恵に、ケラケラ笑う。
「早く起きてくださいよー!今日は新入生歓迎のオリエンテーションがあるんですよ?もう他の先輩方は体育館に行ってるんですから!」
「つーかさー、部活発表会のウチの出し物ってほんとにアレでいいの?今なら引き返せると思うよ」
「もう手遅れです。そもそも我が剣道部主将と副将がすでにノリノリなので、ああなっちゃ誰も止められませんよ」
「一体誰だ、あのバカ共を主将と副将にしたヤツはァァァァ!!」
「坂田先輩、貴方です」
ビシッと言われてしまえば二の句が言えない。
昨年の3年生が部活引退を機に次の主将副将の引継ぎの際、候補に挙がっていた坂田はめんどくさがって坂本と桂に押し付けたことをちょっと後悔した。
坂田は大きく溜息を吐き、寝そべったままパチ恵に片腕を差し出した。
「起こしてー」
「・・・・・。」
パチ恵は言葉が出なかった。
コロコロ変わる坂田に毎度溜息を吐くことばかりであるが、それを一々気にしていたらこの剣道部マネージャーは勤められない。
これからもう一年間、パチ恵は剣道部マネージャーをするのだから。
よしっと意気込み、坂田の大きくてゴツゴツした掌を握る。
今度こそ力を込めて、坂田を起こそうとした時に逆に強く手を捕まれた。
驚いて、坂田に視線を向ければ射抜くような強い光で見詰められる。
見たこともない色に、パチ恵は声が出なかった。
パチ恵の大きな黒い目玉が零れ落ちるのでないかと、坂田はぼんやりと思った。
白くて華奢な手を掴む力は緩めない。
こんなに近くで顔を見ることは、今まで初めてだった。
腹から込み上がってくる熱に、坂田は眉を顰め耐えるがパチ恵にはどうやら伝染してしまったらしい。
柔らかな頬が薄く染まっている光景に、坂田は魅入ってしまった。
今この場所がどこなのかとも、考えられないくらい意識が熱に急かされた。
己にもこんな表情をさせることができるのだ、と―――湧き上がる喜びを坂田は隠しきれずニヤニヤ笑う。
「なっ・・・・なに笑ってるんですか」
「いやいや~べっつに~」
捻くれた坂田の笑みに、パチ恵は頬を膨らませた。
再びゴロリと寝っころがる坂田に、パチ恵は襟をぐいぐり引っ張り立ち上がるよう急かす。
魘されていた熱は、新たな喜びが加わっていた。
坂田はその内面を悟られぬよういつもの眠たげな目で誤魔化した。
「パチ恵ちゃんさ~」
「なんですか?」
少し迷い、息を吐いて別の切り口をした。
一番聞きたい事は、今はまだ聞く勇気が出ない。
「おめー、本当はまだ野球部マネージャーになりたいんじゃねーの?」
「えっ?」
「いや、ちょっと前まではしょっちゅう野球部の方を覗きに行ってただろ?今は全然行かなくなったけど、おめーのことだから我慢してんじゃねーのかなって」
「・・・無理やり剣道部に拉致してきたくせに、意外と気にしてくれてたんですね」
「だからソレは悪かったって。つーか意外とは余計だ」
少し不貞腐れた坂田に、パチ恵はくすくす楽しそうに笑った。
そんな彼女の表情を横目に、落ち着かないようにあっちこっち跳ね上がる頭をガシガシ掻く。
パチ恵は少し息を整え、少し考えながら言葉を選んだ。
「・・・確かに、初めの頃は野球部に憧れてマネージャーになるのならアッチが良かったなぁなんて思いましたけど」
その願いを破った張本人は明後日の方角に視線を逸らした。
「“憧れ”と、“現実”って違うでしょう?」
パチ恵の言葉に、坂田は眠たげだった目線を上げるとじっと坂田を見詰めていた。
彼女はいつも真っ直ぐな目で、相手に気持ちを伝える。
「憧れならいつだってどんな時だって想い続けることはできます。例え立っている場所は違っても、想いを込めて応援することはできます。それが分かったんです」
真っ直ぐでひた向きな瞳で、迷いの無い澄んだ声で坂田に告げる。
その姿に、坂田はあの日壁越しで聞いていた声と交じっているように思えた。
あの日の彼女は、きっとこんな目をしていたのだろう。
「応援したいんです。今は心から野球部の皆とマネージャーのミツバさんを。あの人たちはいつだって真っ直ぐ前を向いているでしょう?そんな人たちと同じ位置で立っていられる野球部マネージャーっていうポジションが私はきっと、それが羨ましかったんです」
「真っ直ぐていうか、あいつ等はただ単に直進しかできねーバカばっかりだろ。だって一番の筆頭がゴリラだからね」
「あははっでも、見てると気持ちいいくらい前しか見てないでしょう?自分でもずっと分からなかったけど、たぶんそうゆうのが羨ましくて、少しでもその気分を味わいたくって野球部に覗きに行ってたんだと思います。そのせいで、坂田先輩にはいつも迷惑かけてすみませんでした」
ぺこりと頭を下げられ、代わりにパチ恵の丸い後頭部に軽いチョップをする。
痛みはないが、その部分を押さえながら坂田を見上げるパチ恵に続きを促す。
「・・・てーことは?」
「あっはい。あの、これからも剣道部マネージャーでいさせてください」
「ばぁーか。おめーはもうウチのマネージャーだろ」
いつもの眠たげな目でニヤリと笑えば、パチ恵は「はいっ!」と笑顔で答えた。
あまりにも嬉しそうに笑うので、坂田は内心(参った参った)と苦笑いをしてしまった。
こちらがどれだけグルグル迷路のように気持ちを悩ませていたことか。
「つーか隣の芝生にもほどがあんだろ。ウチの剣道部だってね曲がり角の連続ばっかりだけど、舐めてもらっちゃ困るぜ?剣道部ジャーマネさんよぉ」
「すみません・・・」
「まぁいいわ。そーゆうことならそれで勘弁しといてやらぁ」
「・・・何で上から目線なんですか。つーかウチは曲がり角ばかりですか。直進コースがあってもいいんじゃないですか」
「それじゃあつまんねーだろ」
パチ恵との応酬でいつもの雰囲気に戻っていた。
けれど、坂田が今何を考えているのかパチ恵は気づかない。
再び坂田が片腕を掲げ、パチ恵に起こしてくれと促す。
そろそろ体育館に行かなければ大遅刻である。
眉を八の字にし苦笑するパチ恵の掌で握られ、今度は素直に身体を起こしながらじっと彼女を見る。
不思議そうにこてんと顔を傾げるパチ恵の芋お下げが、緩やかに揺れた。
メガネのレンズ越しからは、変わらず真っ直ぐな目で見つめてくる。
「パチ恵ー」
「はい?」
いつかのバレンタインの日に見せた横顔とは異なり、今は彼女の中で余裕があるように見える。
あの憎っくきマヨラーへの気持ちにパチ恵なりに一段落がついたのだろうか。
ならば―――
「好きよ」
迷いが消えたのならば、コッチも後は突き進むだけである。
良い先輩ヅラはこれでお仕舞いにしよう。
ここからが本当の始まり。
一切の手加減無用。
坂田は不適な笑みで、瞠目するパチ恵に挑戦状をたたき告げた。
宣戦布告―――坂田はアクセルを踏まずスタートラインを切った。
※ ※
>>postman お題より
坂田の逆襲でした。
ヤツが本気になったことなので、これからはガツンガツンいくことでしょう。
長ったらしいシリーズにお付き合いいただきありがとうございました。私だけ楽しいしリース。
土方先輩の扱いヒドす。
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