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ヒーローは愛に勝てない

色気のない銀新♀

【敗北者の名はヒーロー 】の続きっぽい












※          ※

 おろしたての苺柄トランクスを見つめ、俺はなんとも微妙な気持ちになった。
 と、同時に俺の一番お気に入りの苺柄トランクスを洗濯した俺の押しかけ助手という名の嫁っぽいダメガネの事を思い、長い溜息を吐いた。

 料理・洗濯・掃除・・・ありとあらゆる家事をこなしてくれるダメガネの新は、よく働きこの万事屋を支えてくれる大事な助手だ。
 そう―――新は俺の助手なのだ。
 けして、嫁なわけではないのだ。
 
 いくら人通りの家事を任せっきりで、なのに嫌な顔を一つせずニコニコ気持ちよさげに音程の狂った鼻歌を歌いながら俺の苺柄パンツを洗濯物干しに吊るす、世界一割烹着が似合う乙女であろうと。
 ていうか、10代の若い娘さんに俺は苺柄トランクスを洗ってもらっているこの現実。
 これは一体なんていう仕打ちなのか。
 もう一種のプレイかこれ。
 何の100%なんだこれ。

 別に興奮しているわけじゃねー、湧いてくるのは怒りでも悲しみでも無くもはや諦めにも似た心情だった。
 ただ・・・ただ無性に、時々―――俺・・・じゃねえ。

 新、お前の人生はソレでいいのか?って気持ちになるのだ。





 新が俺のようなおっさんのパンツまで洗うようになった経由は以下にある。
 
 新が万事屋に初めて来た当初、この家の中は汚く所詮男の一人暮らしの住まいだった。
 飯は家で作るより外で買うか食べてくるかの食生活で、台所は使っていないので綺麗だったが同時にゴミ箱はコンビニ弁当やビールの空き缶などで荒れ放題。
 客なんぞめったに来ないのをいいことに隅には埃がたまっていたり、まとめて洗うつもりだった為に洗濯機の中は洗濯待ちの服やパンツで一杯だった。
 で、そんな気ままな男の生活ライフに活を入れたのが押しかけ助手こと新だった。
 その後の展開はもう言う必要も無い。
 ありとあらゆる家事に精を出した新は、どこから取り出したのか割烹着を着こなし気合十分ドジッ子性分も十分に発揮してくれた。
 当時、数少なかった食器を減らしてくれたのも新だった。
「きゃあっ!あああああまた割れちゃったーー!!」
「新ちゃんさー、俺んち片付けに来たの?それとも破壊しに来たの?・・・うんごめんね銀さん言い過ぎちゃったね。後で買い物いこうぜ、な?だから頼むからそんな潤んだ瞳で見上げないでくんない?まるで苛めてるみたいじゃん。おっさんのノミの様な心臓がさっきからチクチクする罪悪感やらドキドキソワソワしたナニかで落ち着かないんだけど」
「ナニかって何ですか。すみません、少しの間だけそちらに行っててください。いえ別に、変な意味ではないですから」
 隅に追いやられ、家中をチョコマカと動き回る新の割烹着姿に見惚れていた俺は、大事なことを度忘れしていた。
 それは新が、洗ったばかりの洗濯物を干している時だった。
 
 一枚一枚丁寧に干していく新がある1点の洗濯物を手にとった瞬間、俺の脳内警報がウィーンウィーン鳴る。
 俺は怒涛の勢いでこれまでの私生活での暮しぶりや、たった数分前までの記憶を辿った。そうだ、溜めていた洗濯物の中には俺の着流しや着替えの服やタオルだけでない、俺のパンツもあったのだ――!

 パンッ!と小気味良い音をたてしわを伸ばした新が、それが服でもタオルでも無く男物のトランクスだということに気づくと音が出るくらいボンッ!と真っ赤になった。
 そんな初々しい反応に「可愛いなあー」と頭の螺子が外れたようなことを思いつつも、新の手からパンツを奪うことも忘れない。
「あっ!何するんですか!?返してください!」
「返すも何もこれは元々俺んだぞ。これはいいからそっちやってくれや」
「それも一緒に干しますから!」
「あのなー男のパンツに真っ赤になってた奴に、俺のパンツは任せられませんー。10年早いわ出直して来い」
「むっ・・・!私にだって銀さんのパンツくらい立派に干せます。見ていてください私の勇姿を!」
「お前の勇姿は俺じゃなくて将来別んとこで見してやれや。いくら助手っていってもね、そこまで任せらんないのよ。てかこんなとこ、お前のねーちゃんに見られでもしたら俺の命が危ねーだろ」
 たくっ・・・と呟きながら、新の純粋で穢れのない綺麗な大きな瞳から俺のパンツを隠す。
 よりにもよって、苺柄トランクスだった。いや、けっこうお気に入りのパンツだけどね?でもせめて、もっとまともな柄だったらよかったって思う俺は間違ってないと思う。
   
 やけに静かな後ろの存在が気になり覗くと、新は不貞腐れたような顔で口を尖らせ洗濯物干しの続きをしていた。
 そんな幼い表情に俺は妙に和んでしまい、苦笑してしまった。
 その時はそのまま終わった。
 新が何故、洗濯物干しにこだわったのか俺は特に深くは考えなかった。

 それから新が用意した夕餉に数十年ぶりに両手をあてて「いただきます」をした。照れ臭かったが温かでほかほかの夕飯にしんみりと感動している俺をよそに、新がぽつりと呟いた。
「私が幼い頃父が亡くなりました。それ以来、私は姉上と二人っきりで手と手を取り合い助け合いながら生きてきました」
「・・・・・・うん、知ってる」
 いきなりクソ重い話である。
 ・・・あー味噌汁ちょー俺好み。マジ美味いなーおい。
「これまで殿方のパンツなんて洗ったことも、ましてや触ったこともありませんでした」
「・・・・・・うん、そうだろね」
 あれ、そんな話だったっけ?てか、なんの話だったっけ?
 ・・・あーそれにしてもこの煮付けちょー美味い。若干味薄いし地味な味付けだけどたまんねーなおい。
「私が万事屋の下でお世話になろうと心に決めた日の夜、姉上から大切な話があるといわれました」
「・・・・・・うん、それで?」
 え、何。なんの話?てかパンツ?パンツの話でなんでこんな空気?
 ・・・あーしかしこんなまともな飯食ったのいつ振りだおい。ほんと美味いなーこれから毎日作ってくんないかなーなんつって。
「『新ちゃん、貴方にはこれから立派な侍になる為に様々な苦難が待ち受けているわ。けれど忘れないで。何時いかなる時も、誰にも負けないゆるぎない精神と屈強な心を持って修行に励みなさい』」
「・・・・・・うん、いい話だね」
 アレてかほんと何の話だっけ?ごめん新ちゃん、銀さんちょっと鈍いみたい。でもすんげー嫌な気もするんだけど気のせい?
 ・・・あー美味かった。ごっそさんでした。隠し味なんだったんだろ、愛か?おいおいそりゃなんかくすぐってーなー。
「『だから・・・殿方のパンツぐらい洗えないようじゃ侍としても、志村家の人間としても相応しくありません』・・・って!」
「お姉さあああああああんんん?!!それちょっと違ううううう!!てか侍ってつけりゃ何でもすむって思ってるんじゃねえだろうなこらァ!!!」
「銀さん!私決めました。銀さんのパンツを洗えるような立派な侍になってみせます!」
「違う!お前の目指すもんは違うだろ!?」
「侍王にオレはなる!」
「ぼけんな!お前がぼけてどーすんだよ全然まとまんねーよこれ!!」
 
 ・・・そんな事があった後、なんやかんやで色々揉めたが最終的に「銀さんのパンツぐらい洗えないようじゃ助手失格です!」と言い張る新に俺は白旗を振ることになった。
「わかったよもう。ただし、パンツは洗ってくれてもパンツの準備だけは自分でする」 
 まだ些か不満そうな新に、おかしな格言を吹き込んだ奴の鉄槌の微笑みが目に浮かぶ俺だった。


 その後すぐに神楽と定春がウチに着てからは、神楽の洗濯物も新がするようになった。
 同時に干して整えた洗濯物はそれぞれの箪笥に仕舞われ、お風呂に入浴の際使用するバスタオルやら下着やらは浴室の戸棚に仕舞われる。
 その方が万事屋の家事に慣れていた新には効率良く、一気に片す事ができるからだった。が――
 
 いつのまにか俺は、自分で用意する分が寝巻き以外すでに準備されている状態に陥っていた。

  





 そして、長い回想は最初に戻ってくるわけであるが。

 新からしてみりゃ、家族以外の男のパンツを洗濯するという意味は立派な侍王になる一環であるに違いない。
 そうでなけりゃ、好きでもねー男のパンツなんぞ誰が洗うか。
 神楽なんて、最近じゃあ「銀ちゃんのパンツと一緒に洗濯しないでほしいアル!」なんて影で言ってんだぞ。俺知ってるもんねー。この間パチンコから帰ってきた時たまたま聞いちゃったんだもんねー。・・・別に泣いてねーよ。なんだよ、これはだな目から汗がちょっと出てきただから!
 まるで世のお父さんみたいな心境だよまったく。
 そんな新よりもさらに若い神楽がコレなんだぞ。

 なあ、新・・・・
 おめーは侍王になる為に俺みたいなおっさんのパンツを洗えちゃうわけ?
  
「なんですか?さっきからジロジロ見て・・・」
「新ー、異性からの嫌な行為に対して100人中1人でも不快だと感じたらそれはもうセクハラアル。すぐにじゃるに電話を・・ふぎゃっ!」
「銀さん!あーあもう、すぐ喧嘩するんだから・・・」
 俺の様子に顔を可憐に傾げた新が、ほてほてと俺に近づいてきた。
 眉を顰めながらも、俺を心配げに覗き込む新の姿に苦笑しさらさらの短い黒髪の撫でると、子ども扱いされた気になった新が柔らかそうなピンク色の唇を尖らせる。
 しかし頬を淡く染めた表情がやはり可愛いと思ってしまう俺は、もはや末期なのだろうか。

「あーあ。新ちゃんは一体いつまで銀さんのパンツを洗ってくれるんでしょうかね」

 大きな瞳をさらに大きくし長い睫をパチパチ瞬かせた新の姿にもう一度苦笑した俺は、その横を通り抜けようとした。
 世のお父さんはわびしいね、まったくよ・・・
 てか、俺いつからこいつらのお父さん的立ち位置になってたんだ。

 そんな俺に対して、未来の侍王はきょとんと不思議そうなモノを見る眼で俺に言ったのだった。


「私、一生銀さんのパンツ洗うつもりですが?」



 ・・・・ねえ、新ちゃん。

 お前ってさ、本当は花嫁修業に着たんじゃねーの?
 
   














※          ※
>>postman お題より
着地点まちがえた

男女の間にはきっとこんなパンツ騒動があってもいいじゃないっておもた

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