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わ   わたしを蕩かす三つの法則

みんな学生シリーズ  パチ恵と神楽 土←パチ要素有
(坂田や土方達は2年生、パチ恵・神楽・沖田などは1年生 坂田→パチ恵前提)

設定*【エースと恋に落ちた少女】  【下手な小芝居の舞台裏】 【り 理由を探して3時間】 
【こ これから突撃するので心の準備をお願いします】 【よ 余分な手作りは処分】バレンタインデーからの続き









※          ※

 法則について、ある現象とある現像との関係を表す言葉であるように
 例えば、ある剣道部マネージャーの心とあるエースへの恋の仮説をこれら3つに分け表してみると

 偏に、恋に憧れる少女の幼い恋愛理論が成り立っていることが分かる。
  




「その1、本命からホワイトデーのお返しを貰えたのか」
「はぁ?」

 神楽の一言に、パチ恵は質問の意図を計りかね聞き返した。 

「パチ恵ー、お前あのマヨラーとどうなってるかアルか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ」

 ホームルーム終了後の放課後、教室内で堂々と放たれた質問にパチ恵は固まった。
 たしか前にも違う形に似たようなことがあった気がする。
 (これって、デジャブ?)

 幸いなのか、教室内にいるクラスメイト達は数名しか残っておらず、談話する者や帰宅の準備をしているなどで誰も二人の会話など興味なかった。 
「ど・・・どうって?」
「とぼけんじゃねーヨ。お前が惚れてるエースは、棒を振り回してる方じゃなくてボールを投げてる方アル。この名探偵グラさんの眼は誤魔化せないネ」
「ほっっ・・・・ほほほほれてねーしゅっ!!」
「噛んでんじゃねーヨ。いいアルかこのままで・・・?何も言わないまま、もう1年過ごしてそしたら来年の今頃マヨラーは卒業ネ。高校時代の思い出なんて、卒業後の社会に出てしまえば新しく覚えることでいっぱいでどんどん記憶の隅に覆いやられて、二十歳越えれば後輩の顔なんて「そういえばあんなヤツいたっけ~」ぐらいな程度しか覚えられてないのがオチネ」
「何そのリアルな現実っ!?これからどんどん高校時代の思い出作る予定の私たちが悲しくなるじゃない!」
「そうやって、呑気に構えてると1年なんてあっという間だゾ!現実を見ろー現実を!すでに1年生の中盤あたりからは進路相談とか就活とか始まってんじゃネーか!4月からは3年生になるマヨラーたちなんてもうとっくにスタート切ってんだヨ!ちなみに私はエイリアンハンターになるけどネ!!
お前が現実を見ろおおおお!!!

 人通りの会話がタイミング良く区切りがついたところで、パチ恵は嘆息ついて手荷物を持つと椅子から立ち上がった。 
 神楽はまだ不満気だったが、そんな友人の想いがパチ恵は嬉しかった。

「帰るアルか?」
「うん、今日は剣道部の3年生を送る集まりがあるの。神楽ちゃんも良かったらおいでよ。集まりって言っても気軽にカラオケだから、美味しい食べ物とかもあるよ」
「マジでか!行くアル!少し遅れるから、後から行くアル」
「うんわかった、その時は連絡してね」
 コートを羽織り、マフラーを巻いて身支度を整えたパチ恵は神楽にケータイ電話を見せてそう言った。
 パチ恵はそのまま教室から出て行くのかと思ったが、何故か窓の外を見ている。
 不思議になった神楽はパチ恵の視線の先を見た。

 春先の風はまだ冷たいままで、窓は閉めきっている。
 下校途中の生徒たちの声も、グランドで部活動に勤しむ声も聞こえない。
 窓を開け、身を乗り出しても見ない限りはここからではその影ですら見えない。

「・・・神楽ちゃん、私ね」
「うん」

 少し語尾が震えている。
 初めの神楽の声を、パチ恵の次の言葉に迷わせた。
『ホワイトデーにお返しを貰えたのか』
 パチ恵はキュッと唇を引き締めると、ゆっくりと言葉を続けた。

「バレンタインデーに土方先輩にチョコ・・・渡さなかったの。たぶん、今の私はそれで良かったんだと思ってる」

 パチ恵はそっと微笑んだ。
 潤ませたパチ恵の瞳に、神楽は彼女の恋を見てることしかできなかった。

「だって、私。先輩に―――――」




 
 剣道部現主将の桂の呼びかけと現副将坂本の幹事役で、剣道部3年生を送る会は一般的な学生達の基準を大幅に超えた会場へ招待された。
 カラオケと聞いていたのに、高級ホテルの最上階一室を借りた豪勢なパーティーへと変貌を遂げている。
 待ち合わせ場所で部員達が待っていると、そこへやって来たのはホテル直通のシャトルバスだった。  
 妙な既視感に思考が止まるパチ恵と坂田他部員達をそっちのけに、意気揚々とバスの中から現れた桂と坂本に無理やり全員乗せられ、そのままホテルまで連れて来られたのだった。

「つーか、一体誰だ。あいつらに幹事任せたのは・・・」
「『こーゆうのは金を持ってるヤツの方がセンスあるし、一任だと俺は思うよ』って言って、面倒なもの全部押し付けてたのは坂田先輩じゃないですか」 
「・・・パチ恵ちゃん記憶力いいね」
 おだてるように言う坂田に、パチ恵はやれやれと息をついた。

 改めてパーティー会場となった室内を見回すと、スィートルームと呼ばれるような豪華な造りと十分なくらいの広さで、随所に置かれた置物やさり気ない箇所までもがどこにも手抜きの無い気品のある部屋だった。
 元々のホテル自体が高級なだけあって、最上階となるこの部屋の窓からは都会の真ん中にも関わらず美しい風景が見ることができる。
 きっと夜になれば、ビルや高速道路などのネオンが光り輝き、綺麗な夜景が見れるのだろう。
 部屋の窓から屋上のテラスに繋がっており遊泳の小さなプールがあった。季節はずれであったことが惜しいとテンションが上がった3年の先輩が悔し涙を流しみんなに笑われ、漂っていた緊張感が温和され和気藹々といった雰囲気が流れた。
 部屋の中にはいくつものドアがあり、メインで使われている部屋以外の隣の部屋も扉が開かれ行き来できるようになっているし、奥には寝室もきちんとある。
 ホテルの会場など肩がこる様な格式ばった場所ではなく、『部屋』という意味では皆がくつろげる空間を演出していた。
 パチ恵にとってホテルの部屋というのは、単に泊まって寝るだけの物ではないのだと知った。
 
 こうした経験など学生の身分から味わえた事と場を設けてくれた桂と坂本に感謝し、経験を学びに繋げようと真面目なパチ恵は考える一方で、最上階の一部屋を丸々借りた場合の値段は一体どんな恐ろしい金額が弾き出されるのか。
 貧乏育ちのパチ恵は恐ろしくって、とても坂本に聞けない。
 戦々恐々と坂本を見たパチ恵は、大きなソファにちょこんと座るものの落ち着かない。
 坂田は置かれてある食べ物や甘いスイーツやケーキなどを簡単に皿に盛り付け、パチ恵のグラスにジュースを注ぎその隣にドガッと座った。
 
「んなビクビクしてっと、楽しめるモンも楽しめなくなんぞ。オメーは剣道部ジャーマネらしく胸張ってどーんと構えとけ。どうせタダ飯なんだかよ」
「・・・だからそのジャーマネは古いですって!つーか、坂田先輩は遠慮が無さ過ぎです」
「そうですぜィ旦那。女とツーショットかませてないで、俺にもそこの豪華なソファ座らせてくださいよ」
「つーか、なんでオメーらもいんの?」

 二人が座る大きなソファは、この部屋に置かれるのに相応しいとも言うべき素材で、座った時の感覚が落ち着くものだった。
 真後ろに立っている野球部沖田は、手に持った皿にたくさんの食べ物を乗せ、ソファに座る二人を羨ましげに見ている。
 他にも野球部キャプテンの近藤がパチ恵の姉であるお妙に壁に立てかけているダーツボードの代わりに本物の弓で狙われていたり、桂とエリザベスが勝手に人生ゲームをしていたり、野球部と剣道部の部員達がパーティーゲームをそれぞれの空間で好き勝手に暴れている。
 本来はお世話になった部活の3年生に感謝し卒業を送ろうという集まりであったが、何故かそこには長年に渡り争ってきた野球部も混じっているし、二つの部活に所属していないお妙など少数の姿も見受けられた。
「せっかくのお祝いじゃき、クリスマスの時みたいに皆でわいわいしたほうが楽しいがぜよっのお高杉?アッハッハッハ!!」
「てめぇはいつも笑ってるだろ」
 太っ腹ななのかどうなのか、坂本に話を振られた高杉は呆れたように言うと別の方を見て、柳眉な眉を顰め気持ち悪そうな眼をした。
 見ると野球部と剣道部のガタイの良い男同士でツイスターをしているので、なるほどと思った。
 周囲は盛り上がっているが、誰だって傍から見ればガチムキ兄貴たちの筋肉のぶつかり合いはご遠慮願いたいものである。
 普段あまり表情の変化が見られない高杉の意外な一面に、面白そうに坂田がからかった。
「なんだぁ~高杉くんったら、羨ましいのぉ~~?」
「ハッ!くたばれ天パ」
「んだとぉ!?このそろばんオタク!!」

 些細な争いは何故か周囲が勝手に顔をつっこみ勝手に騒動を広げ、剣道部マネージャーの健気な制止も、二つの部活の大将同士がさらに輪を大きくした時点で彼女は潔く諦めた。
 この騒ぎにホテルの人から追い出されなければいいなと思ったことと、せっかくこんな豪勢な部屋を用意してくれた坂本の顔に泥が付かなければいいと心配した――が、当の本人も騒動の一任と化していたので。
 パチ恵は、巻き添えを食わぬよう黙ってその部屋からソッと離れたのだった。


 騒がしい部屋から抜け出したパチ恵は、二つ隣の部屋の前にやってきた。
 この辺りは静かで、少しは落ち着けるだろうと思いバルコニーに足を踏み入れ――――て、止めた。

 壁にへばり付くパチ恵の姿は、先客で居た土方とミツバからは見えないだろう。
 驚きで胸がドキドキ高鳴っているのか、それとも夕日が沈んでいく光景を見つめる二人の姿に胸が締め付けられるように苦しくって高鳴っているのかパチ恵には分からない。

――いつから、二人で居たのだろう。
   どんな会話をしていたのだろうか。

 堪らずに、その場でしゃがんで立てた膝に顔を隠した。
 この息苦しさが、今のパチ恵の幼い恋心を痛めつけていた。
 
 滲んできた涙を誰かに見られる前に拭いておこうと、ポケットを探していると横からハンカチが差し出された。
 条件反射で思わず受け取ってしまったパチ恵は、ギョッとして顔を上げると、そこに居たのは神楽だった。
(かっかかか神楽ちゃん!?いつの間に着てたの)
 パクパク口を動かすパチ恵に、神楽は笑った。
 それはもう、ニヤ~ッと悪戯をする直前の子供の顔で。

「キャッ!!」

 神楽は力強くパチ恵を押し出し、室内からバルコニーに身体がはみ出てしまった。
 倒れる寸前に無意識に床につくが、すでに手遅れで土方とミツバに完全に見られてしまった。 
「あっ・・・」
 二人とも驚きで呆然とパチ恵を見ているが、パチ恵も硬直して二人と視線を合わせることしかできない。
(かかかか神楽ちゃんんん!?どうすんのこれっどうすればいいのコレ!!)
(女は度胸アルぜぱっつあん。当って砕けて来い)
(当るも何も、砕けるだけの防壁なんて無いからねコレ!真っ裸状態だからねコレ!)
(・・・ぱっつあんよぉ。今のオメーは全身鎧兜で敵陣の前に弁当売りに来てるもんだ。その持ってる弁当はこのグラさんに任せて、オメーはまず頭の兜を脱ぐことから始めナ。鎧を脱ぐ必要はねー。そいつはオメーを守る大事なモンだ。だがな、時には兜を取って蒸れた頭を冷やすことも必要アルぜ)
(グラさんんんんんん!!!って、違う違う。私教室で言ったよね?そんなんじゃないって。つーか、お弁当云々のくだりはただ単にお腹空いてるだけだよね?)
(いいから言って来いやダメガネええええ!!!)

「・・・あ、大丈夫パチ恵ちゃん?」
「どこか怪我したか」
「えっっっ」

 神楽との心の討論でうっかりしていたパチ恵は、心配げに声をかけたミツバと土方に改めて顔を合わせ慌てて立ち上がる。
「だっ大丈夫です!ちょっと足を踏み外しちゃって・・・わぁー綺麗な景色ですね!」
「ついさっきまで日没だったのだけど、とても綺麗だったわよ」
「えー見たかったなぁ」
 取り繕った会話にも、微笑んで答えてくれたミツバに感謝し心の中でホッとする。
 しかし、先ほどまでのイイ雰囲気をぶち壊してしまったパチ恵は罪悪感と居心地の悪さに落ち着かなかった。
 さっさと席を外したかったが、影から見守るグラさんに(イケー!そこだー!)だの野次を飛ばされひそかに腹立たしくなる。
 恨めしげに睨むと、拳を突き出しニヤリと笑う。

(その2、頭の兜を脱ぎやがれ!)

―違う、と喉からの叫び。
 土方の顔を見るのに勇気が出でない。
 笑顔で会話をしてくれるミツバの方ばかり見てしまう。

 こうして眺めていると、美男美女でやはりこの二人はお似合いだと思った。
 色白の肌に大きくて柔らかめな目元で優しく微笑まれれば、誰だって好意を抱くだろう。
 パチ恵の胸に小さな棘がチクンと刺す。
 
 この二人の間に、どんな顔して割り込めば良いのだろう――。


 瞼を閉じた瞬間に決心を固めた。
 応援してくれる神楽に申し訳ないが、タイミングを見計らい室内に戻ろうと。
 そんなパチ恵に―――
「少し肩が冷えてしまったので、私はそろそろ中に戻りますね」
「・・・えっっ!?」
「平気か?」
「ええ、もう幼い子供じゃないんですから大丈夫ですよ。パチ恵ちゃんは良かったらこの人のお相手お願いできるかしら」

 できません。
 と言えない微笑みをするミツバは、実姉とは違う笑顔の威圧感を持っている。
 そのまま本当に室内に帰ってしまったミツバに、すぐ近くに居た神楽はバレなかったかどうか心配になった。
 

「「・・・・・」」

 ほら見ろこの空気。
 誰に言うでも無く静まり返るこの“間”に、パチ恵は頭の中で会話が弾むような話題がないか巡らせる。
 意味も無く手を拱いていると、土方があー・・・と不器用そうに口を開いた。
「・・・最近、どうだ?」
「え?」
「いや、剣道部。忙しいか?」
「えっああ、えっーと、そうですね。今の3年生が夏で引退してからは、2年生の桂先輩と坂本先輩が主将と副将で部活を盛り上げて、4月からの新入生をなんとか剣道部に引き入れようと皆で今から計画を練ってます」
「計画って・・・なにやらかす気だおい」
「あはは・・・」
 それについては秘密事項である為、これ以上は何も言えない。
 土方の呆れた口調に、空気が和らいだ気がした。
 彼のこういった一面が、パチ恵は好きだった。
「剣道部のマネージャーはお前一人だけだろ。ついでにあいつらにもう一人くらい欲しいって打診しといたらどうだ。お前の仕事も少しは楽になるだろ」
「土方先輩・・・」
「息抜きしたくなったら、いつでもウチに来い。近藤さんやウチの連中は大歓迎だぜ」
 
 土方の言葉が、嬉しかった。
 そういえば、と思い出す。以前はしょっちゅう野球部に遊びに行っていたが、最近はそうしなくなった。
 意識して避けていた節もあった為に、気にかけていてくれた土方に申し訳なさが込み上げて来た。

「・・・ありがとうございます」   
   
 気持ちが熱くなって、頬が火照ってきたのを自覚する。
 土方に変に思われていないかどうかだけが、心配だった。

 
 4月にパチ恵は2年生になる。
 同時に、坂田や桂達含めて目の前の人も3年生に進級する。

 初めて出会った去年の4月が、今は遠くもあっという間にも感じた。
 あの時感じた胸の高鳴りを思い出す。
 今は部活の先輩で一番傍にいることが多い坂田は、あの時はとても悪い不良に見えたのだ。
 そして助けてくれた土方を、パチ恵の中で初めて恋焦がれる人だと思った。

 たった今さっきまで、閉ざしていた気持ちがどんどん溢れてきた。
 この人と逢えて良かったと。

 自分の掌で溶けていったあの日のチョコレートが、己の胸の中に甘さを沁みていく。
 素直に、澄んだ気持ちでふい蘇った思考の中で笑う神楽の姿があった。

(法則その3・・・・・・・・)

 思い出して、笑みが零れた。
 結局、神楽の言っていた法則の意味を聞いていない。
 
 しかし、きっとこうゆう事だろう。


「好きです」


 茜色から紺色へと移り変わる夜空に近い場所で、パチ恵は微笑んだ。
 真っ直ぐな瞳で見つめられた土方は、思考の全てを奪われる。

 こんな顔もするのかと、パチ恵はまた一つ知った。
 柔らかに笑いかける。

 もう一度、心を込めて言葉を口にした。
 一般的な、けれど特別な愛の言葉。
  
 
 パチ恵の導き出した“答え”に、壁越しで神楽は笑った。

 












※          ※
>>postman  お題より

とりあえず一区切り。(無鉄砲に発進するもんだから)難産でした。。此処まで読んで下さった方ありがとうございました。
書けたら次は坂田のターンしたい。

*あくまでも土パチではなく、土←パチです。
このお話のパチ恵ちゃんは一度土方にぶつかればいいと思いました。
どうでもいい補足:パチ恵ちゃんは剣道部のみんなからちゃんとホワイトデーのお返しを貰いました。

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