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みんな学生 銀時とパチ恵、土方とミツバ パチ→土要素有り
【エースと恋に落ちた少女】 【下手な小芝居の舞台裏】設定
※ ※
「分からないんですけど・・・」
剣道部マネージャーは、そう呟いた。
彼女がそう呟くことになったのは理由がある。
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剣道部マネージャーの志村パチ恵は、一人のエースに憧れていた。
そのエースとは、同じ部のエースではなく剣道部とは何かと仲の悪いことで有名な野球部エース土方先輩である。
本来なら憧れの彼と同じ部活のマネージャーになることを夢に見ていたパチ恵は、ちょっとした手違いで剣道部マネージャーとなってしまった。
しょっちゅう部活を抜け出しては野球部の練習風景を見にいくパチ恵に、土方先輩もまんざらでもなく。
2学期終業式が迫ろうとする数日前、パチ恵は土方先輩との初デート権をもぎ取ったのであった。
学校以外での外で憧れの人と会える。
パチ恵は舞い上がり、彼女の浮かれっぷりは相当のものであったが、そんなネタを黙って見逃すほど彼女の周囲の人間達は顕著ではなかった。
一体どこから嗅ぎ付けたのか、いつの間にか二人の初デートは『剣道部&野球部合同クリスマス会~普段仲悪いがこんな日こそ互いの親睦を深め合おうよ!~』と、なっていた。
パチ恵はかなり落ち込んだが、(いやここは待てよ)と思いとどまる。
元は自分と土方先輩の二人だけのデートとなる筈だった。ならば形だけでも主催者ということになるのではないか―――?と。
そうなれば立場上、クリスマス会についての事項を話し合ったり二人だけの時間がこれまでとは違い増えるのではないか・・・!?と。
パチ恵は案外ポジティブな娘であった。
しかしそんな前向きな少女の思考をさらに上回る周囲は、知らぬ間に幹事が勝手に名乗りあがり場所押さえや会費等必要不可欠の事柄をすでに決めてしまい―――そして、パチ恵が呆然としたまま当日、彼女を迎えにきたのは愛車の原付に乗ってきた剣道部エースこと坂田先輩だった。
□
そして、パチ恵の思考は過去から現在に戻ってくるが未だに少女は目の前の状況に追いつけずにいた。
「分からないんですけど・・・」
「何が?メガネであることがか?安心しろ、お前のメガネはお前だけにしか付けられない。云わば、選ばれしメガネだ。勇気を持て、そして胸をはれ!そうすれば自ずと、道が開かれるさ・・・」
「なんでメガネ限定なんですか。どんだけメガネに対して重っ苦しい使命が委ねられてるんですか。そうじゃなくて、この状況に付いてけないんですよ!」
「なんだ、何が不満なんだ?海の上で豪華客船に乗ってクリスマスを迎えられることのどこに不満があるってんだよ」
「不満っていうか可笑しいでしょ普通!?一体どこの世界に、豪華客船をクリスマス会場にする高校生がいますか!!」
「いるじゃん、あそこに」
そう言ってケーキの苺を刺したフォークで指差した方向には、黒髪のモジャモジャ頭で愉快そうに笑っている部活仲間がいた。
「・・・・・」
「あいつんち、金持ちでさーボンボンなんだよ」
いやー持つべきものはやっぱ仲間だなぁ~と呑気にぼやき、甘そうなクリスマスケーキをお皿に死守した坂田先輩だった。
口の周りにクリームをくっつけた彼は、幼い子供のように口いっぱいにケーキを頬張り美味しそうに食べている。
行動こそアレだか、姿は普段見たことのないきちんとした会場に相応しい礼服に身を包んでおり、格好はすでに一人前の男性のように見えた。
彼だけでなく、今回は場の雰囲気もあってか皆それなりの礼服で着ており、とても子供たちの楽しいクリスマス会というよりまったく正反対の端麗な大人の社交場のようで、パチ恵は肩がこって居心地悪かった。
いつも部活動で汗を掻いている面々が、ピシッとした姿で佇んでいることが可笑しく思え。
逆にやっていることは、普段となんら変わりの無い遠慮の無い行動を自由にしている彼らにほっとする反面、いいかげんにしないと追い出されるのではないかとヒヤヒヤした。
というか、剣道部と野球部以外の人間も混じっているのだがいいのだろうか。
(ああ、神楽ちゃんったらスカートなんだから沖田君とそんな暴れちゃだめだよ・・・)
(姉上ー!それ近藤さんです!ルーレットじゃありませんから、フォーク投げちゃダメー!!)
(土方先輩・・・そんなにマヨネーズかけちゃったら体に悪いですよ)
相も変わらない様子に慌てながらもこみ上げる笑いを我慢していたら、すぐにそう思えなくなった。
彼の隣には、ケーキにタバスコを大量にふりかけている野球部マネージャーの姿があったからだ。
病弱なあの美しい先輩は学校を休みがちで、なかなか部活に顔を出せていないが今回は体の調子が良いらしくこのクリスマス会に参加できたのだった。
多少味覚が偏っているが、立ち振舞いはとてもお似合いだとパチ恵は素直に思っていた。
土方先輩もあの女性の前では、いつもと少し違うようにも見える。
それだけにパチ恵は胸が苦しく、きっと敵わないと心が沈んでいった。
きっと罰がくらったのだろう―――
あの女性を差し置いて、一度でも抜け駆けしようとした自分に。
先輩は知っているのだろうか、自分と土方先輩とのデートのことを。そしてそれをどう思ったのだろうか。
考えれば考えるほど、暗くしみったれな気持ちしか湧いてこない己が嫌で堪らなくなり、パチ恵はその場から席をはずしデッキの外へ向かった。
海の上を優雅に走る豪華客船のデッキも乞ったデザインで施されており、これで雪が降れば素敵なクリスマスになるのだろう。
パチ恵はデッキの手摺に凭れかかり、夜景を眺めていると薄着が祟ったのか寒気に身震いし鳥肌を立たせた。
真冬なので当たり前なのだが、いまいち決まらない己が情けなく涙がでそうだった。
「ぅぅ・・・寒い」
やはり室内に戻ろうかどうしようかと悩んでいると、後ろからサイズのでかい黒いジャケットがパチ恵を寒さから覆いかぶさった。
驚いて振り向くと、坂田先輩がニヤニヤと笑みを浮かべ佇んでいる。
「なぁに黄昏ちゃってんのパチ恵ちゃんったら。一丁前に気取るのはまだ早いんじゃねーの?」
シャツと緩んだネクタイ姿からこのジャケットの持ち主がすぐに分かると、パチ恵はそれでは寒いのではないかと申し訳なく口にしたが、来ていろと言われてしまったのだった。
夜景の美しさにおーすげーと声をあげた坂田先輩の何気ない優しさが嬉しく、パチ恵はそっと微笑を浮べた。
坂田先輩はデッキの手摺に両腕と背中を預け凭れかかり、パチ恵は海面の方角に向きをかえしばらくはそのまま夜景を楽しんだ。
先ほどまでにあった居心地の悪さが消えてなくなり、どうしてだか今はこのまま続けば良いのにと思う。
それを素直に言葉にしたら、妙な顔をしパチ恵の頭を撫でようとした上げた手を何故か坂田は引っ込めた。
「パチ恵よぉー・・・」
「はい?」
少女は気づかないが今夜、端麗に着飾ったのは男子諸君だけでない。
美しく着飾った女子軍の中にいても、一番に目が惹くのは一人だけであった。
うすく施された化粧とドレスアップした姿は、すでに一人前の女性のようで――
「――――来年は、その髪に触らせてくれや」
言葉の意味が知りたくて、坂田先輩を見つめたが
それ以上に熱の篭った瞳で見つめられ、パチ恵は再び居心地が悪くなった。
けれど、先ほどとは違い身体がむずむずするどこか落ち着かない感触にパチ恵は何も言えなくなり
そんな少女の反応にからかうことなく、坂田先輩は穏やかな表情で見つめた。
彼が言った言葉が心に引っかかり、いつまでも消えなかった。
※ ※
>>postman お題より
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