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よ   余分な手作りは処分

みんな学生シリーズ  坂田とパチ恵と土方 土←パチ要素有

設定*【エースと恋に落ちた少女】  【下手な小芝居の舞台裏】 【り 理由を探して3時間】 
【こ これから突撃するので心の準備をお願いします】 続き








※        ※

 
 記憶を遡ること、桜舞う春――
 高校に入学したばかりのパチ恵に待っていたのは、新しい高校生活と初めて会う人たち

 そして
 白髪のクルンクルンでモジャモジャな頭をした、背が高く大きな身体の見知らぬ上級生だった。

「だからさぁー、ねえ聞いてる?」
「は、、はぃ・・・っ」
「そんな怯えんなよ。いじめてる訳じゃないんだからさぁーえーと、パチ恵ちゃん?」

 身近に迫る整った鼻筋と眉。
 白髪と思っていたが、近くで見上げるとその髪が綺麗な銀色なのだと分かった。

 背が低く華奢なパチ恵のうすい小さな胸がドクンドクン緊張で高鳴る。
 けして、目の前のかっこいい先輩に一目惚れしたとかそんな乙女な展開では絶対に無い。
 美しい桜の木にパチ恵を押しつけ、横から逃げないよう両腕で囲われているという、パチ恵の今だかつて経験した事の無いロマンチックなシチュエーションではあるが。 
 
 眠たげな瞼を持ち上げ、瞳の色素が色濃い紅いまなざしがギラギラ輝く。
 パチ恵に微笑みかける笑顔は、古い少女漫画のような白い歯を爽やかにキラリ☆と光らせた微笑ではなく

 パチ恵にとって、幼い頃苦しめてきた借金取りのおっかないヤーさん達がよくしていた、馴染み深いあの凶悪ヅラの笑顔であった。
 たっぷり間をとって、一言。

「先輩からのお願い、聞いてくれるよね?」
   
 つま先から芋い二つのお下げの毛先までを、パチ恵は恐怖で振るわせたのだった。 



↓↑


 
 【エース達の場合】


「「ゲェッ」」

 蛙の低い鳴き声のような美しくない声が、上級生の廊下から双方に響いた。
 今の低音を一言で表すならば――嫌な奴と会っちまった―――という所であろう。

「あれれ~マヨ方君じゃない。相変わらずマヨマヨうるせーことで」
「マヨマヨって何だそれ。意味わかんねーよ。てめぇは相変わらず死んだ魚の眼しやがって」

 睨みあう両者の眼から、目に見えぬ光がバチバチ鳴る。
 もはやこの光景は、同じ同級生の間では毎日見る姿である。
 黒髪のシャープな目つきで坂田を睨む土方は、ダルそうに佇む坂田の手元を見てニヤリと笑う。

「何これみよがしにチョコ持ってんだてめぇは。そんなちっちぇー物じゃあ自慢にもなんねえぞ」
「え~やだー大串君ったら!自分が貰ってないからって、やっかんでんじゃないのぉ~?」
「・・・まじうぜぇんだけど何コイツ殴っていい?つーか、チョコぐらいなら俺も貰ったし?まっ俺は甘いモノすきじゃねーから食べれねえけどな。つーか大串じゃねよし!!」
「へー!大串君みたいなヤローでも貰えるんだぁ良かったねー大串君!」
「~~マジうぜぇンだけどコイツ!!もうやっちゃっていい?やっちゃっていいよねコレェ!?てか、大串じゃねーって何回言わせんだテメェは!!」
 
 ヒートアップしていく口論に段々周囲はまばらになっていく。
 何かと個性の強い彼らと共に過すには、誤って関わるとこよりも遠くからそっと伺う方が正しい学校生活の基本マナーである。
 土方の言葉に一々反発心を抱く坂田は、自ら校内一の糖分王を名乗っておきながらわざとその真逆の態度で振舞う。

「つーか、俺も本当はバレンタインってそんなに好きじゃねーんだけどぉ~くれるって言うから断るわけにはいかねーじゃん?ついでに聞くけどお前は何個貰った?」

 また、坂田の言葉に土方も簡単に乗ってしまうのがこの二人の永遠のスタンスである。
 互いが互いの存在その物を昔から快く思っていなかった。
 坂田の挑発にイライラした土方は、元々甘党ではなかったが坂田の口調を真似るような返答をした。 
 
「俺も全っ然興味ねーんだけどね?まぁ仕方がないよな、だって断れねえし?ついでに言えば俺は今年9個くらいかな~。ついでのついでに聞くけど、お前は何個?」
「俺の方こそ全っっっ然まったくこれっぽっちも興味ねーんだけどしょうがねーし?みたいな~。ついでのついでのついでに言えば、俺5個」
「ぶはっマジで!?お前去年よりすっげー減ってんじゃねえか!・・・・あー、悪かったな」
「ちょっと、何その哀れんだ目。すげー腹立つんですけど。まぁ減ったのは確かなんだけどな・・・」
 そこで口を閉じ、片手を口元に置き少し静かになった坂田に気味悪げに土方は眉を顰めた。
 普段ならここでもっと口喧嘩の末に拳に行く展開である筈なのに、今の坂田は物静かに目線を少し逸らし頬を僅かに照れ臭そうに赤らめている。
 まるで何かを思い浮かべているような。
 去年よりも格段に減ったバレンタインチョコに落ち込んでいるのか考えれば、それは違うと長年奴と争ってきた己の第六感が否定する。
 ならば、一体何を企んでいるのか。
 この天パヤローこと坂田が考えそうな罠をいろいろ考えていた土方は、坂田の次の言葉に少し出遅れた。
「実はさぁーどうやら例の噂が結構広まっちゃってる見たいなんだよね~」
「・・・う、うわさ?」
「そうそう。で、それ信じちゃってる子けっこういるみたいで。いやぁまいったなーおい」
「それで今年のチョコが減ったって?勘違いも程ほどにしねーと恥かくぞ」
  
 悠然と横を通り過ぎていく坂田に、土方は冷静に声をかけるがその内面は動揺していた。
 例の噂話なら自分の耳にも届いている。
 剣道部エースとマネージャーとの仲の良さについて――
 一部噂では尾びれ背びれついてとんでもない噂に発展しているが、二人のことを知る者であればその噂自体に何一つ真実なぞ含まれては入ない。
 けれど。

「ついでのついでのついでのついでに言えば、このちっちぇーチョコもアイツがくれたんだけど・・・。まぁしょうがねーよな、だってバレンタインだもん」

 この男に関わる事全て、信頼と呼べるモノは何一つ存在しない。
 けれど、“アイツ”と口にした言葉の中にはチョコレートに似た甘さが微かに含まれていることを、土方は敏感に感じた。

「ああっでも。大串君は他の女の子やら野球部ジャーマネからたーくさんチョコ貰う予定だから、関係ないよね。ごめんねー?変な話聞かせちまって」

 多くの数よりもたった一つだけのチョコに覚えるのは優越感。
 坂田が付け足しで加えた野球部マネージャーの言葉が土方に揺さぶりをかけ、最後に一言言い包めてやろうとした土方の意思を消してしまった。
 後ろを振り向かず悠然と歩いていくその背中に何も言えず、土方は黙り込む。

 その姿を見つめていたミツバに存在に気づかないまま。
 彼女の少し切なげに揺れた瞳を知ることも無いまま。


 
↓↑



―――今でも思い出すたんびにアレはとんでもないカツアゲであった。

 パチ恵はしみじみ溜息を零す。

 それくらい初対面の印象がえらく悪どかったあの時の先輩こそが、坂田先輩であった。
 一体どこで気に入られたのか不明だが、部活見学中だったパチ恵に声をかけてきた坂田先輩は執拗にウチの部に来いと迫ってきた。
 どんな部なのか説明を聞くことも声を出すこともできず震えていたパチ恵に、その後すぐに転機が訪れる。
 周囲が関わり合いになろうとせず見てみぬフリをする中、あの人だけが違った。

「おい、そこで何してんだ」
   
 突然聞こえた見知らぬ男の人の声にビクッと驚いたパチ恵と、声の主に不機嫌そうに眉を顰めた坂田。
 振り向いたそこに立っていたのは、野球のユニホームに身を包んだ黒髪の上級生だった。
 坂田と同じくらい背が高いその先輩は、坂田を射殺すような細い目つきで睨むとパチ恵の怯えた表情に気づき、坂田の腕の中からパチ恵を引っこ抜き背中の後ろで庇う。
 スローモーションな一連の出来事であったが、それ以上にパチ恵は己を助けてくれた見知らぬ先輩にもはや目が釘付けだった。

 夢見がちな想いであったがまるで、王子様のような人だと素直に思ったのだ。
 桜の花びらが舞い落ちる、春の出会いだった。 



↓↑



 【※※※の場合】


 
 放課後を待ってパチ恵が部活仲間の男子諸君へ渡したバレンタイン感謝チョコ=義理チョコは、皆とても喜んでくれた。
 パチ恵がマネージャーを務める強豪剣道部は古い歴史があり、多くの功績を残してきた実績のある有名校で、校庭の端っこに佇む体育館の隣にはひっそりと剣道部の道場がある。
 道場の壁にはこれまでの剣道部の歴史を作ってきた先輩達の写真や表彰状が額縁に飾られ、丁寧に磨かれた木の床がピカピカに光り輝き、重々しい雰囲気があった。
 全国を目指す剣道部は、部活が始まればそこは汗流し懸命に鍛錬する者で溢れる。
 パチ恵は初めこそ半場無理やり連れて来られた身として不満だらけではあったが、持ち前の真面目さと順応力の高さで今ではすっかり馴染んでいた。
 休憩の合間に、メガネっ子のマネージャーから貰ったバレンタインチョコの小さな包みを開け美味くて甘いチョコを頬張る部活仲間達の姿を横目に、坂田は一人隅っこで眠たそうに横になっていた。
「くっくっ何不貞腐れてんだぁ銀時」
「銀時、お前は食べないのか?お前もマネージャーから頂いたのだろう、中々美味いぞ」
「いやぁ~悪いのぉ~金時ー。わしらもお前の分と同じ物もらってしもおてのぉ~あっはっはっはっ!」
 愉快げに話しかけてくるいつもの部活仲間始め、近くで会話を聞いていた他の者たちも面白そうに笑っていた。
 確かに最初は自分だけとぬか喜びしたが、それをいつまでも引き摺っていると勘違いされているようでとても遺憾であった。
 なにより仲間の笑い方は、友を慰めようとする笑い方ではなくいかにも嘲笑っている笑い方であるのは明白であった。
「しつけーよお前らあああ!!ちょっといい加減にしてくんないいいい!?べっつに俺落ち込んでるわけじゃないもんねー!つーか知ってたしぃ俺!ウチのジャーマネは優しいダメガネだから、バレンタインに一個もチョコ貰えないお前らを哀れんだだけだかんねー!お前ら、そこんとこ勘違いしないでよね!!つーか、俺は銀時だってーの!!」 
「ぐほぉッ」
 黒いモジャモジャの頭を踵落としで一撃を喰らわすと、笑っていた周囲を黙らせた。
 そんな周りの顔を見る前に、坂田はさっさと道場から出て行く。
 機嫌を損ねたというのも理由だったが、高杉や坂本達にからかわれたからだけではなく、先ほどからずっと気になっていた事も理由の一つだった。

 わざわざ、どこへ行く?などとは聞かない。
(やれやれ・・・)
 桂は溜息を吐き、坂田の背中を視線で見送った。
 


↓↑



 黒髪の背の高い、鋭い切れ長の黒い瞳をした野球部のユニホーム姿。
 それだけで、学年と名前はすぐに分かった。

 彼は校内でとても有名なエースだった。

  
 新入生歓迎試合、投手として投げたボールは鋭い速さでゴリラのような捕手が受ける。
――バシィッー!!
 大きい、けれど心地よい音がグランド上に響き、パチ恵の胸に鋭く胸を叩いた。

 部活見学に訪れた1年生の中には男子だけでなく、グランドの外で見学する女子達の中にパチ恵はいた。
 怖い上級生に絡まれた所を助けてくれた恩人は、自分とは違う世界にいる人であった。
 
 その横顔を、見詰める。

 ゆっくりと胸に沁みてくる想いを感じながら――。
 ベンチに戻り汗をタオルで拭く彼とその傍にそっと寄り添った美しい野球部マネージャーの二人の姿を一つの額縁で飾りながら。

 とてもお似合いだと、瞼を閉じながら。


 瞼の下に浮かんだ涙を、誤魔化しながら―――。

 回想は、年明けの寒い冬に戻ってくる。
 パチ恵はこっそり、野球部の練習風景を覗きにきた。
 コートも羽織らずに着てしまったので、冷たい風がパチ恵の肌に突き刺さる。

 グランドにはやはり、周りの部員達に指示を出す土方の姿があった。
 ほぉ・・・とパチ恵は溜息を零すが、傍まで近寄ることはできない。
 以前ならばまだ、休みがちのミツバの代わりと称してさり気なくグランドのベンチまで行くことはできた。きっと今でも、ミツバと他の野球部の皆はパチ恵を受け入れてくれるだろう。
 しかし、自分は野球部と敵対関係にある剣道部マネージャーであり立場上の事もあるが、何より今日この日だけは野球部の――ひいては土方の近くへ行かないとパチ恵自身が決めていた。

 一種の意地のようなものだった。
 誰にも言えない意地ではあったが。

「・・・なのに、矛盾してるよね。コレ」
 両手で隠した小さな包み袋。
 剣道部のみんなや神楽に渡したバレンタインチョコとは色違いの袋であった。
 メッセージタグには何も記名されていないバレンタインチョコ。
 
 誰にも言えない、誰も知らないこのバレンタインチョコをパチ恵は大切に両手で包んでいた。
 それはまるでパチ恵以外の人に、このチョコの存在を知られないように。
 あまり大切に包んでいるせいで、体温の暖かさでチョコがトロトロに溶けてしまいそうだったけれど、いっそこのまま溶けてしまえばいいとさえ思っていた。
 もしかしたら――と、意地で決めていた事を忘れ、この想いで詰ったバレンタインチョコを彼に届けてしまいそうだったからだ。

「はぁ・・・戻ろう」

 野球部の誰にも見つからないようにその場を後にした。
 冷たい北風に身震いする。
 ムズムズする鼻を堪えることができずくしゃみをした時、背中から肩までを暖かいぬくもりがパチ恵を包んだ。
 自分を包んでいるのが見に覚えのあるコートの色で、すぐに振り向けばやはり頭に浮かんだ人が寒さに震え佇んでいた。
「パ~チ~恵~てめぇ寒すぎだろ。家出娘ですかコノヤロー」
「あう・・・」
 すぐにパチ恵は首根っこを掴まれ、さっさと剣道部の道場へ連れ戻される。
 その光景は前にもあったやり取りだったが、この二人の場合は毎回の事なのでパチ恵も迎えにくる坂田も馴れてしまっていた。
 隣を歩く坂田は黒い袴姿のままで、寒さでガチガチに震え息を白く吐いている。
 何も羽織らないまま部活を抜け出したパチ恵を気遣ったのか、今さっきパチ恵に被せたコートは坂田が持ってきた物だったようで。
 パチ恵はやはり遠慮しコートを脱ごうとするも、坂田はパチ恵の額にデコピンをした。
「だったら毎回逃亡すんな。何度も言うけどね、お前はウチのジャーマネなんだからね。分かってんのそこんとこ。まったく最近の若い子は~」
「・・・坂田先輩、ジャーマネって古いです」
 ブツブツ言う坂田に、パチ恵はクスリと小さく笑う。
 去年のクリスマスの時と同じだった。
 坂田の些細な優しさに、パチ恵は感謝した。

 穏やかな表情で隣を歩くパチ恵の横顔にはもう、先ほどまで一人悲しげな顔をしていた姿がもう消えていることに坂田はひっそりと安堵した。
 そして、眠たげな瞳でパチ恵を見詰めると、視線を胸に隠すように抱いている小さな包み袋を見る。
「パチ恵ーなにソレ。良いもん持ってんじゃないの」
 ハッと顔を上げたパチ恵は、坂田の言っている良い物の正体を知ると一度だけその包み袋をギュッと抱きしめた。
「なんか甘い匂いすんだけど」
「・・・どんだけ糖に敏感なんですか先輩。いい加減にしないと本当に糖尿になりますよ」
 呆れた嘆息をするパチ恵の表情の中に、隠してしまう様な悲しげな変化が無いか坂田は秘かに伺う。
 坂田の視線の意図にまったく気づかないパチ恵は、スンスン鼻を鳴らす先輩の姿に柔らかな微笑を浮べて言った。
「駄目ですよコレは」
「何誰かに上げんの」
 坂田の問いに、パチ恵は緩やかに首を振った。
 前を見詰めるのは、今坂田の顔も誰かの顔も見ると目に涙が浮かんできそうだったからだ。
「違いますよ」
 一瞬だけ、瞼を閉じた。
 あの桜舞う春の時のように――

「・・・余ったチョコで作った自分用ですよ」

 目線を合わせずに微笑むパチ恵の横顔を、坂田は唇を尖らせた。
「ちぇっ」

 甘党な坂田に悪いなと思いながら、パチ恵は冷たい風に二つのお下げを揺らしながら歩いた。
 両手に抱いたチョコはきっとトロトロに溶けているだろうと思いながら。

 誰の手にも渡ることのないチョコレートは、じんわり溶けていく。
 両手の温かさと、身体を覆う大きなコートのぬくもりで。
 
 ゆっくり、ゆっくり――溶けていく。

 彼女に胸に、ゆっくり、ゆっくりと―――。
 
 




   
 
 


 


※        ※
>>postman お題より
渡せなかった少女のバレンタイン 

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