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ち   地球の裏側にだって行ってみせましょうとも

仔銀と仔新(というか赤ん坊)と坂本と松陽先生

*舞台は原作風
*坂本は不老不死
*すべてにあいまい
*バレンタインって何だっけ?









※          ※

 
 小さな背中に背負った小さな幼子の後姿が、妙に可笑しかった。

「ほおーちんまいのが増えとるのぉ」
 空になったお猪口を持つ片手をひょいと上げ愉快げに言うと、徳利を持ち上げ酒を注ぎながら柔らかなに微笑み話す。
 此処へ会いに来るたんびに交わす酒は、格別の美味さだ。
「戦場で鬼の噂を聞きましてね。どんな鬼なのか興味があって会いに行ったんですよ」
「アッハッハッハ!相変わらず見かけに似合わぬ豪胆なお人じゃあ~」
 もじゃもじゃの茶髪を揺らし黒いサングラスをキラキラさせながら楽しそうに笑う。
 互いに古い友人であり、共に変わらぬ姿が嬉しく微笑みを深くした。
 もっとも、もじゃもじゃ頭の男だけは昔から一寸も変わらぬまま若い姿であったが――。
 遠い記憶の中でいつまでも変わらぬ姿と若さ。
 月日が立つ毎に、目の前の友人だけを残し老いの差が離れていく。

「其処にいた鬼はなんとも可愛らしい鬼でね、背中には人の子を背負っていたのですよ。抜け身の錆びた刀をギラつかせ必死に己と幼子を守ってました」

 酒を注がれたお猪口に口をつけ喉に流し込む。
 強めな味に喉から熱がともなって、顔を赤く染めていった。
 笑ってばかりの男が静かな空気を生むと、古い木の自然の音が家の中に木霊する。
 
「・・・そうかぁ守っておったのかぁ」

 黒いサングラスに映すのは、半開きの襖の奥に見える鬼と呼ばれた少年と、鬼と呼ばれた少年が守り続ける小さな幼子の寝姿である。
 安寧な暮らしを得てもなお、鬼の少年はどこへ行くにも幼子を背中に背負うと云う。
 片時も離れず、幼子の世話を誰にも任せないのだと。
 まるで、宝物を盗られぬようにしているかのように。

 二人の童の寝顔はなんとも可愛らしい。
 だが、これが昼間では幼子に近づこうものなら少年の鉄槌が待っているのだから容赦ないと秘かに涙を呑んだが、誰に対しても特に大人の男には幼子の傍に近づかせないのだそうな。
 まるでハリネズミのようだった。
「こんなちんまいのにのぉ~アッハッハッハ!」
「辰馬あまり声を出して起こさない方が身のためですよ。寝起きも容赦ありませんから」
 辰馬と呼ばれた男はすぐに笑いを引っ込め、親切な忠告をしてくれた友人を眺めた。
 常に優しい笑みを絶やさない友人ではあるが、この世で一番容赦ない人間は彼であると思っている。
 フウと溜息を零し、もじゃもじゃ頭の後ろ髪をガシガシ掻いた。
「おんしはどうなんじゃあ?あの銀髪の童に噛みつかれておるのとは違うぜよ」
「私はあの仔に剣を教えているので、今のところは」
「アッハッハッハ!神さまーこの憎っくき男に天罰をくださーい!」
 辰馬の笑いに、襖の奥で寝ていた黒髪の幼子がぐずり出した。
 しまったと口に手を中て笑いを引っ込める。
「ふっ・・・ひっぐ・・・」
 ぐすぐす泣き出しそうになる姿に、赤ん坊の大きな泣き声を想像し一切の動きを硬直したがそれはすぐに杞憂に終わる。
 隣で寝ていた銀髪の少年が、片手だけを動かし馴れた仕草で幼子の腹を優しく叩いた。

―――ポン、ポン・・・

 柔らかな振動にぐずっていた幼子の表情が柔らみ、また静かに眠りだす。
 幼子が眠りだすまでずっと腹を優しく叩いていた手を止め、そのまま幼子を抱きしめるように銀髪の少年は眠った。

 今の光景に、辰馬は酔いが覚めたかのようにぼけっと見つめ、少年の師である男はお猪口に満たされた酒をくいっと飲んだ。
 なんとも言えない気持ちになったのは本音だ。
 己の知る識には、本来は「母」と呼ばれる人の仕事である筈。
 しかし、鬼と呼ばれた少年と、その少年が守る幼子の間には母の姿は一切なく。そして、友人であり師であるこの男も母を与えない。
 親がいなくても子供は育つ。
 黒いサングラスを指で押し上げながら、そんな言葉が脳裏に過ぎった。 
 
 胸に沁みてくる寂しさを酒で誤魔化すと、荷物の中を漁る。
 本当は、道中のおやつ代わりにと持っていたものだったが友人宅にこんな童子たちが居ると思っていなかった。
 
 目当ての物が見つかり、友人に見せ付ける。
「おや?」
「ふっふ~ん、ワシからの贈り物ぜよ。西洋ではたしか、“バレンタイン”という祭りの名前がついておったかのぉ。あやや?どんな祭りだったかは忘れてしもうたぜよ」
 
 警戒心の欠片も無い無邪気な二つの寝顔の枕元にそっと置いた。
 小さな包みであるが、中には甘い砂糖をまぶした豆が入っている。
 
 翌朝目が覚めた時の姿を想像し、笑いたくなったが今はまだ我慢しておく。
 またぐずりだしたら、己は今度こそ少年の鉄槌が下るだろう。
 少年の寝顔を見つめながらふと気づくと、黒髪の幼子の小さな手が少年の指を握りしめていて微笑みましくなった。
 そんな辰馬の様子をやれやれと溜息を零すものの、その笑みはとても柔らかい。
 
「・・・新八にはまだ早いですよ」
「そうか~新一くんと言うのか~えー名前じゃのお!アッハッハッハ!」


 豪快に笑う声で今度こそ起きた少年に蹴られるのは、それから数分後のことである。
 この夜を機に、友人宅に尋ねるたんびに少年と幼子の成長を喜び懐には砂糖をまぶした豆菓子の袋を忍ばせるようになるが、それはもう少し先の話。

「なんだか色々なお祭りが混ざっている気がするんですが、まぁよしとしましょうか」

 賑やかな今宵、友人がこんな言葉を零していたことはついぞ知る由も無い。
      











※        ※
>>postman お題より
坂本は不老不死なので、これからも変わらぬ姿で銀時と新八に会いにきます。そのたんびに可憐に成長した新八に抱きつこうとしてはこれまた立派に育った銀時に蹴られてます。銀時の将来は万事屋じゃなくって薬草を取り扱う村で評判のお医者とかになったりして新八は村で評判の幼妻とかお嫁さんだったりして。そんな妄想がこのお話の中には詰ってますが、うん。
無理があるね。

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