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こ   これから突撃するので心の準備をお願いします

みんな学生シリーズ パチ恵とミツバと神楽と諸々恋する学生さんたち

設定*【エースと恋に落ちた少女】  【下手な小芝居の舞台裏】 【り 理由を探して3時間】










※          ※

 【剣道部マネージャーの場合】


 フォンダンショコラ、チョコマフィン、生チョコレート、トリュフ・・・・・ 
 
 トレードマークの地味メガネをくいっと押し上げ、バレンタイン用お菓子作りの本を真剣に眺める。
 見れば見るほど、お口の中にヨダレが溜まる一方だ。
「・・・・もういっそ、私が欲しいくらいなんだけど」
 様々なレシピを眺め、脳内で予算と時間を画策しているのは、幸か不幸か強豪剣道部のマネージャーを務める志村パチ恵である。
 彼女は今、乙女の試練=チョコレート会社の陰謀にドップリ浸かっている真っ最中だった。

 
 剣道部マネーシャーパチ恵にとって、『バレンタインチョコ』とは・・・・
――いかに楽で、安上がりに、たくさんの大人数分を作れるか。

 それが、重大点なのだ。
 

 手短に、店頭での購入も候補に入れてみる。
 渡す相手の人数が少なければこの方法はとても優位であろう。だって、買うだけだもの。 
 しかしその人数が軽く一桁越すことを考えれば、すぐに却下だった。
 いくらラクチンであろうとも、計算機で出た答えが彼女の予算をオーバーしていたのであった。
 
 たかが、一年の内のたった一日の事だけで貧乏な剣道部マネージャーの財布の紐を緩めることは許されないのであった。
 なので、一番てっとり早く安上がりの材料で、且つ乙女の手作り感を演出し、男性陣のハートをガッチできるであろう根本的な王道作戦に切り替えることにした。

 その方法とは―――。

 1・某チョコ会社の安いが味は確かな人気板チョコを溶かす。
 2・チョコを小さいカップに流し込み、砕いたナッツの欠片を混ぜたり、カラーシュガーやアラザンなどのトッピングを施す。
 3・冷蔵庫で固める。

 と、いう初心者感バリバリな超簡単戦略で剣道部員分を作ることに成功したのであった。
 あまりにもアレな気がするが、100均で購入した手乗りサイズの可愛らしいラッピング袋とリボンで綺麗に誤魔化し
 極めつけに、一つずつ梱包した物に一人ずつの名前を書いたメッセージタグを付ければ、統一された包みであろうと、自ずと「嗚呼これは自分の為に作ってくれたんだな・・・」みたいな気持ちで多少は喜んでくれる筈だ。
 イベント時に置ける手作り菓子にとって一番大切なのは、『貴方の為に頑張った』『僕の為に頑張ってくれた』精神である。
 渡す側も貰う側も両者の間にコレさえ通じ合っていれば、多少の事など二の次だ。
 “料理は愛情”だと、料理研究家の北大路魯山子先生も言っていたし。

 そしてそれは、なんやかんやで付き合いの長いあの剣道部メンツを想像すれば、たぶん当たりだろう。
 剣道も喧嘩もめっぽう強く、一癖も二癖もあり、素直じゃない、けれど案外純粋で優しい汗臭い連中なのだから。 

 所詮、義理チョコである。
 市販の方が好まれそうな気がしないでもないがソコはソレ。
 だって。

――手作りの方が女の子っぽいじゃない?






 【野球部マネージャーの場合】


 野球部次期エースである沖田総悟は黙っていればイケメンなので、毎年たくさんの女の子達からチョコを貰ってきた。
 けれど、何時だって毎年一番にチョコを貰う人は決まっていた。

「おはよう、総ちゃん。はいこれ」

 朝、眠気まなこを擦りリビングに向かえば、沖田にとって世界で一番大切な人が、笑顔で激辛せんべいをくれるのだ。
 市販の袋ではなく、わざわざ別にラッピングされ、激辛せんべいの半分にチョコレートが付け加えられている辺り彼女なりのバレンタイン仕様なのであろう。
 せんべいの半分こずつに激辛と甘党。
 これがまた何とも言えないマッチングであるが、沖田は毎年笑顔で受け取るのだ。

 学校へ登校する為に身支度を整えている間、一つだけ気になるモノを見てしまった。
 先に制服へ着替えを済ませていた姉が鞄と一緒に紙袋を持っていた。
 特に可笑しな点ではない。
 きっと、姉は野球部員の分もあの激辛せんべいチョコ付きを渡すのであろう。
 野球部マネージャーを務める彼女は同時に、野球部初期メンバー達とは幼馴染でもあるのだ。

 義理チョコ=「感謝チョコ」
 否、義理激辛=「感謝激辛」

―――それが、沖田ミツバの『バレンタイン激辛』なのである。 
 
 
・・・・なのである。
 その筈なのだが、何故か気になった。
 
 紙袋の中に大量につけ込まれた激辛せんべいチョコ付きのバレンタイン激辛仕様の中に、たった一つだけ。
 たった一つだけ、明らかに包み袋の色が違うのを。

 あえて聞かずとも空気嫁ない男ではない沖田は、先ほどまでの幸福感が立ち消え眉を顰めた。
 そして脳内で、憎らしいあの男の抹殺計画を練っていくのであった。





 【中国からの美少女留学生の場合】
 

 母国語でバレンタインデーは『情人節』と読む。
 日本は女性から男性へチョコレートや贈り物を渡す習慣であるように、神楽の故郷の慣わしはそれとは真逆である。
 男性から女性へバラを贈るのが一般的であり、日本曰く都合の良い『義理』なんていうのも無い。
 情人は日本で言う『恋人』という意味である。
 すなわち、100%恋人達による恋人達の為のお祝いの日であるのだ。
 
 贈るバラの数にも色々な意味があるようだが、そこまでお子様神楽にはまだ分からない。
 しかし昔神楽のマミーが、神楽のパピーとの情人節での思い出を話してくれた。
 あのハゲはマミーに99輪のバラの花束を贈ったらしい。
 やるじゃんハゲ!!と、少し見直したが意味を知った時、切なくなったのは誰にも内緒だ。

「――と、いうわけでそのチョコは貰ってやるアル」
「と、いうわけってどういうわけ?一体どの変でそうなった?つーか俺のチョコは誰にもやらんぞおおおおお!!!」
「・・・坂田先輩神楽ちゃん、そこにいると他の人の迷惑だから」

 下駄箱の中の上履きに履き替えたパチ恵は、学年の違う坂田先輩の方から聞き覚えのある声ですぐに状況を察した。
 登校間もない昇降口にて繰り広げられる彼ららしい朝の挨拶に、パチ恵はやれやれと溜息をこぼす。
 かつて遅刻常習犯だった坂田に呆れたパチ恵は、自ら率先して坂田との登校を始めてからすでに半年以上。
  おかげで彼の遅刻はめっきり減ったが、その分坂田ファンの女子達による視線がさらに冷たくなってしまい、パチ恵は肩身が狭い思いをするようになった。
 
 同級生の神楽と坂田先輩の会話の流れが不明だが、坂田先輩の下駄箱に詰め込まれていたたくさんのバレンタインチョコを見てなんとなく理解した。
 しかし、なんとまー・・・・
「ベタですね」
「なに嫉妬?」
「そのアッチコッチに跳ね上がった天然毛質毟りますよ」
「天パってことか。天パって言いたいのかコラ。・・・しっかし、まぁ今年は少ねーなおい」
「少なっ・・・!?こんなに貰ってるのに?今の発言嫌味っぽいですよ」
 ぺしゃんこの鞄に適当にほいほいバレンタインチョコを詰めていく坂田に呆れたパチ恵だが、いやいやと坂田は首を振った。
「いやマジな話。なんか最近減ったんだよなー・・・ってそれはまぁいいや。うんパチ恵ちゃんは気にしないでいいから。そして神楽、お前はパチ恵に余計なこと吹き込むんじゃねーぞ。つまり、これでしばらくの糖分は確保できたってことでよしとするかうん」
「?何がいいんですか。いまいち分からないんですけど」
 勝手にうんうん頷き納得している背中を放っておくことにしたパチ恵は、手にぶら下げていた紙袋の中から1つ小さいバレンタインチョコの袋を取り出し、坂田先輩に差し出した。

「坂田先輩、受け取ってください」

 少し頬を恥ずかしそうに染めニコッと可憐な笑顔で向けるパチ恵に、坂田先輩は眠たげだった半開きの眼をギョッと大きく上げ驚き、中々思うように言葉が出ないでいるような反応を示した。
「え・・・・っ!?ま、、、、マジで?」
 普段マイペースな坂田先輩の予想外な反応に、パチ恵は「?」と芋い二つのお下げを揺らしながら少し小首を傾げる。
 そんなに驚かせてしまったのだろうか。
 それとも、己のような地味女からのチョコに引いているのでは・・・
 パチ恵は少しだけ落ち込みながらも、負けじと練習してきた笑顔と言葉を口にした。
「はい!いつも坂田先輩にはなんやかんやでお世話になってますから、その感謝チョコです!それと・・・他にも桂先輩と高杉先輩、坂本先輩たち剣道部みんなの分もあるんですよ。ほら、こーんなに沢山・・・ってアレ?」
「・・・・・。」
「銀ちゃーん感謝チョコって何アルか?」
 ぶら下げていた紙袋の中に入っている山のようなバレンタインチョコを見た坂田先輩は、先ほどとは打って変わって静まり返った。
 テンションただ下がりした坂田の袖を、神楽がチョンチョン引っ張る。
「感謝チョコっていうのはね、日ごろお世話になっている人へ贈るチョコを言うんだよ。つまり『義理チョコ』ってこと!はいっ神楽ちゃんには友チョコね!仲の良い友達に贈るチョコなんだよ」
「ありがとうアルパチ恵!私チョコ持ってないから、代わりに酢昆布あげるネ」
「ありがとう神楽ちゃん」
 仲の良い女の子同士の可愛い会話にも口を挟まない坂田先輩のことがいよいよ心配になってきたパチ恵に対して、神楽は坂田に生暖かい同情の念を送る。

 今年のバレンタインに坂田宛のチョコが少ないらしいことも、巷ではすっかり定着してしまった例の噂話の件にも、鈍いパチ恵はもうそろそろ気づいたほうがいいと神楽は思った。
 ついでに言えば、何故坂田がこんなに落ち込んでいるのかも―――である。
 生徒達が多いこんな昇降口の場所で、チョコの受け渡しなんてした暁には、会話さえ聞こえなければ噂話は確定したも同然である。
 神楽でさえ気づいていることだ。
 この男だって気づかないわけがない。が、狡猾な奴はそこをあえて否定する動きなどまったく皆無である事もパチ恵以外はみんな知っている。
 自ら己の首を絞めていることにまったく知る由もないパチ恵は、純粋な気持ちで剣道部の皆を思い感謝チョコを作ってきた。
 剣道部のメンツは癖の多い連中ばかりであるが、そんな奴らになんやかんやで可愛がられているパチ恵が作ったバレンタインチョコは例え義理であろうと喜んでくれるだろう。

――しかし、この男だけは違ったようで。

ちっくしょおおおお!!来年は覚えてろおおおおおお!!! 
「誰に言ってるのおおおお!!?って、ちょっとおお!坂田せんぱーい!!?」
 
 昇降口のシミだらけの天井へ向かって叫んだと思った瞬間、坂田は廊下をダッと走っていった。
 隣にいた剣道部マネージャーの腕を掴んで。

 坂田の誰宛なのか不明な絶叫にツッコんだパチ恵は、そのまま制服のスカートを風に揺らしながら坂田に連れ去られていく。彼女の声がだんだんと小さくなっていった。
 哀愁を漂わせながらもちゃっかりマネージャーを拉致った坂田の背中へ、神楽はお手手とお手手の皺と皺を合わせ幸せのポーズをとり念を送った。

「南~無~」

――日本の情人節は少し厄介で、めんどくさい。
 神楽はまた一つ大人になった気がした。

 
「うるせーなぁ。一体何の騒ぎでぃ」
 聞きなれた声のする方へ振り向けば、登校したての沖田がこちらに歩いてきた。
 少し離れた所からは、少年の姉が神楽に笑顔で小さく手を振っている。
 神楽はそれに手で降り返していると、傍までやってきた沖田は神楽の手にしていた小さな包み袋をじっと見ていた。
「やんねーぞ。パチ恵に貰ったアル」
「マジでか。俺も後で貰おっと」
 そう言う沖田も、肩にぶら下げている鞄のチャックからはバレンタインチョコが数個はみ出ていた。
 神楽は呆れや笑いよりも心がゲンナリ消耗した。
「日本の男はアホばっかりアル。そんなちっちぇー物にこだわってしこしこしこしこ・・・」
「モテねー女の愚痴ほど、醜いもんはねーなぁ」

 神楽の怒りのゴングが鳴る。―――が、その前に上級生の下駄箱の方角から大きな破壊音がした。


 登校したばかりの生徒たちは悲鳴をあげたり、急いで避難したりちょっとした騒ぎになる。
 立ち込める砂煙から現れたのは、神楽が姉御と慕う女性であった。
 そして、彼女のとび蹴りで顔面に打撃を受けているのは沖田が慕う野球部キャプテンゴリラだった。
「「・・・・」」
 その近くには小規模だが、十分な破壊力のある拳を振りかざすおりょうと、「アハハアハハ」と楽しそうにしかしとても痛そうに顔面に受けているパチ恵と坂田と同じ剣道部員の坂本が騒ぎを起こしていた。

「・・・おい、チャイナ。こんなちっちぇー物にも、全力で立ち向かう日本男児がいるんだ。舐めてもらっちゃあ困るぜぃ」
「・・・お前が言うと、全然心が篭ってないアル」

 ゴリラが地面にバウンドしながら崩れ落ちた瞬間――――もう一つの戦いの火蓋が切って落とされた。


 2月14日、とある高校の朝の昇降口での出来事である。
 ちょっとした騒ぎどころか、一時間目を完全に潰し、そろって校長室まで出頭することになることなど
 この時、誰も気づいていなかった。


   
 繰り出した豪腕をアッサリ交わされながら、ふと思った。
 日本の情人節とか、やはり厄介で、特殊で、甚く面倒くさいものであると。

 此処にいる全員が、それぞれまったく異なる様に
 連れ去られていった親友の情人節は、どんな展開が待ち受けているのだろうか。

 感謝チョコに友チョコ―――そこに、もう一つ意味を為すチョコの存在を彼女は誰にも言えずに、隠し持っているのでないだろうか。
 
 
 神楽の故郷のような風習が、厄介なこいつ等の情人節にもあれば
 もう少し、人と人と関係が分かりやすくなるのに。


 神楽の胸にふと過ぎった切なさが、昔覚えた感覚とよく似ていたのだった。   
 

 












※          ※
>>postman お題より 

情人節についてはネットで軽く調べた程度なので間違ってたらすっません。もっと知りたい方は調べてみてください。
99輪のバラの意味【天長地久】――天地が永久に変わらないように、物事が永遠に続くこと。Forever 

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