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と   友達の枠を3歩ほど飛び越えたいと思います

真選組隊士新八 銀→→→←新












※         ※

 市内の見回りをしていたら、綺麗な女の人からバレンタインチョコを手渡された。
 僕は両手で下げていたたくさんの紙袋の中に入れると、また1つ分重量が増した。

「はぁ~・・・」

 贈り物が増えるたんびに、僕の溜息も増える。
 歩くごとに多くの女性達から声をかけられ、チョコを貰うその光景はまるでラブコメ漫画の学校一モテ男の様だった。
 そんな夢のような現実が目の前に起こっていることに本来大喜びしてもいい筈であるが、果たしてそれが本当に僕宛であったならば、僕は往来のど真ん中で喜びの阿波踊りを披露した筈である。
 この贈り物を貰う本当の主達は、今此処にいない。
 いつもは率先して市内見回りという名のサボりを決め込む真選組一番隊の隊長も、それに激怒し市内を戦場化させる鬼の副長も今日この日だけは違った。
 大人しく屯所に閉じこもり一歩も外へ出ようとしない引き篭もりと化しているのである。
 真選組一位と二位のモテ男達が市内を歩きたがらない気持ちは、外へ出てたった数分でよく分かったけれど、今は果てしなくむかつくしウザかった。
 
 曲がりなりにも僕は真選組隊士で、今は隊服を着ていて、本来真選組は市民の皆さまに恐れられる存在である筈なのに何故か皆親しげに僕にバレンタインチョコを預けていく。
 他の隊士はこんな目にあっていないらしいが、それはちょっと頷ける。
 誰だって刀を腰に差した強面の隊士に、気軽に話しかけることなど恐ろしくてできやしない。
 自分宛ででないチョコの伝達などお願いした暁には怒られ最悪、その場で斬られてしまいそうだった。
 そんな中、僕のような地味なタイプが一人で見回りしている様はきっと話しかけやすかったのだろう。
 本人達はきっと貰ってくれそうにない、他の隊士に頼めそうにない。
 そんな恋する女性達にとって僕との出会いは幸運を、僕には不幸な出来事であった。ちっくしょおおお!!!

 帰ったら沖田隊長のブロマイドを神山さんに高く売りつけて、副長にはマヨ保管冷蔵庫の中身全部捨てて、代わりに黄色い液体と摩り替えてやる―――!!

 腹いせに地味な嫌がらせしかしないのは、これがけっこう地味にキツイからだ。
 けして僕が地味だからということでは、けして無い。
「いやいや、そんな地味な嫌がらせ地味な新ちゃんにしかできない地味さが滲み出てると思うよ地味に」
「ちょっとおおお!どんだけ地味地味言えば気が済むんだよっ・・・ギャッ!?さっさささ坂田さんんん」
「何その反応。地味に傷つくんですけど」
「あ・・・すみません」
 憮然とする彼に、僕は我に帰りすぐに謝った。
 そんな僕に、坂田さんはいつもみたいにふっと笑うと大きな掌で優しく頭を撫でてくる。
 燃えるよう緋色の瞳は、今は柔らかな灯のような暖かさで僕を見下ろしていた。
―あぅ・・・恥ずかしい
 ぽかぽか熱くって、とても落ち着かない。
 僕はこんな時の坂田さんが少し苦手だった。
 さっきまで悲嘆に暮れていた心もどこかへ行ってしまった。
「つーか新八さぁ」
「・・・はひっ!」
 僕の頭を撫でてくれていたぬくもりが離れていくのを寂しく感じていたら、変な声がでてしまった。
 気づかれたくなかったのにやっぱり坂田さんはくっくっと笑っている。
「随分たぁーくさん貰ったじゃないのー?モテんのねお前」
 銀さん妬けちゃうーと気持ち悪いしゃべり方をする坂田さんに、僕は溜息をついた。
 持っていた紙袋にギシギシに積み込まれたバレンタインチョコを一つ取り出すと、彼に見えるように目の前に掲げてみせる。
「――嫌味ですか」
「――うん、ごめんね?」
「からかわれるのも腹が立つし、謝れるともっと腹が立つんですかどうしたらいいですかね」
「俺からのチョコを受け取っておけばいいと思うよ」
「からかいがさらに上乗せされるともう死にたくなります」
「お前一人で逝かせたりはしねーよ、銀さんも一緒に死んでやるから残りの人生全部俺にくんない?ついでに苗字を坂田姓に変更してみない?」
「僕跡取りなんで結構です」
「んもー新ちゃんったら!そんなに銀さんのハートを振り回すなんて・・・罪なオ★ト★コ「坂田さん気持ち悪いです」そんな新八くんにはもれなく銀さんが嫁いでやんよ、幸せな家庭を築こうな新八。手始めに“坂田さん”呼びから“銀さん”呼びに変えてみようか。なぁー新八」
 
――スタスタ早歩きの僕に、のんびりと歩きながらしっかり跡をひっついてくる坂田さん。
 近くに交番はないだろうか。

「なぁ新八ー寒くね?どっか暖かいトコ入ろうぜ」
「坂田さんだけどうぞ。僕まだ仕事残ってるんで」
「たくっ真面目だなぁおめーはよ。そんな頭ガッチガチだと将来ハゲんぞ?ほらそこの生え際あたりとか・・・」
「ハゲてねーよ!!いつまで着いて来るんですか、万事屋のお仕事はいいんですか?」
「俺結婚したら真面目に働くタイプなんだよね」
「しらねーよ、てかサボりかよあんた。んもー神楽ちゃんや定春に怒られても僕知りませんから・・んぐっ!?」

 突然口の中に何かを入れられ、驚く。
 坂田さんの指がまだ僕の唇に触れているので、口を開けることができなかった。
 口内に広がっていくのは、よく知っている甘いとろけるような味。
 とても美味しい――

 思わず味を噛み締める僕に、坂田さんは満足したようでニヤニヤ笑いながらもう一粒チョコレートを僕に口元まで持っていくので、ひな鳥のように僕は流れで口をあーんと開けてしまった。
 今度はゆっくりと味を舌で感じれば、なんだか市販のチョコとは少し違うような気がする。
 坂田さんはよく、僕に差し入れだと言いながらお手製のデザートを作ってくれるのでもしかしたらコレも彼の手作りなのだろうか。
 もう次のチョコを手に持ち準備している坂田さんの空いているほうの手には、銀色のリボンで綺麗にラッピングされていたであろう小さな包み箱の蓋が開いていた。
 会話の中で俺のチョコという単語が出ていたが、まさか本当だったとは。
 初めて姉以外で貰ったバレンタインチョコが、同性からというのは中々脳内が痺れるもののそれ以上にこんなにも心臓がバックンバックン胸がキュンキュン締め付けられている僕の今現在の状況もいかがものだろうか。
 そんな僕の葛藤をよそに、またあの僕が苦手な表情で坂田さんは僕を見つめる。
――うぅ・・・なんか熱い
 やっぱり僕、坂田さん苦手だ。


 何もしゃべれなくなった僕を坂田さんは不思議がることなく、その後の見回りにも付き合ってくれた。
 重くって仕方がなかった荷物を持ってくれた坂田さんに、僕は彼の裾を摘んで甘えたくなってしまった。

 彼と想い合えることがもしもできたそのときは、坂田さんを銀さんと呼べるようになれるのだろうか。
 手を繋げることも、時間も気にせずゆっくり歩いていけるのだろうか。

 例えば、隊服さえ着ていなければ―――なんて。
 いつもは己を奮い立たせてくれるこの服が、今はとても着心地が悪くて仕方がなかった。
    
 













※        ※
>>postman お題より
市内見回り=デートコース

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