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真選組隊士新八 銀→←新
※ ※
僕の隣で、坂田さんが大きな欠伸をした。
「ふわぁ~~~・・・・・あー寝み」
・・・なんて呑気な人なんだろう。
僕の口から思わず零れ出た溜息に、牢屋の見張りの男がジロリと睨みを利かせたのだった。
□
共に捕まっているこの状況の中、僕は今に至るまでの記憶を辿った・・・辿ろうとしたけれど何故か思い出せなかった。
攫われた時の記憶が思い出せない。
たぶん、あっという間に気絶させられたのだろう。
「簡単だな、僕・・・」
ポツリと呟いた僕の肩を坂田さんは黙ってポンポン優しく叩いてくれた。慰められると余計に辛くなるんだよね人って・・・。
攫われた瞬間の記憶がないのなら、その前までの事を思い出そうと思った。
朝は家を出て、職場に向かう道中で偶然を装って待ち構えていた坂田さんに遭遇したんだっけ。
何度も家の中にまで侵入しては姉上に半殺しされている局長とは違い、坂田さんは姉上の目の届かない範囲を狙ってくるのだ。
過去に踏んだドジを二度と踏まない。
そうゆうところは頭の回転が速いのだろうけれど、やっていることは局長とそんなに変わらない。
何度も断っているのに、毎日僕をスクーターで送り迎えしてくれる。
何度も注意しているのに、屯所内に平気で侵入しては僕に手作りおやつの差し入れをくれるし。
何度もスルーしてるのに、毎日僕に求婚してくる。
なんでこの人こんなにマメなんだろう。
けっこうずぼらでぐーたらな性格っぽいのに、案外尽くすタイプなのだろうか。それとも結婚したら性格が豹変するタイプなのだろうか。・・・あ、なんかそれってイヤだな。
「そんなわけで、坂田さん。貴方に出会えて僕良かったです。さようなら、幸せになってください」
「ごめん新ちゃん。銀さん全然話が分かんないんだけど」
「坂田さんとの思い出を大切にして僕生きていきますね」
「お前が生きてくのは俺の隣なんだから、過去の思い出じゃなくてこれからの思い出を一緒に作っていけばいいじゃない。だから、手始めに今の仕事やめて銀さんのトコに永久就職においで。あんな危ないトコに居っからこんな目にあってんじゃねーか。ちなみに銀さん、今回はたまたま依頼でこんなトコにいるだけだからね。いつもみたいに新ちゃんを見守って(後つけて)たわけじゃないからね。たまたまだからね」
「どっちも同じじゃねえかああああ!!真選組の仕事も万事屋の仕事も危ないことには変わりないじゃないですか?!」
「同じじゃねーよ。少なくとも俺んトコなら、いつだってすぐに駆けつけて守ってやんよ」
「かっこつけても結果的には一緒に捕まってんじゃないですか。何そのドヤ顔むかつくんですけど。あーあ、僕やっぱり事務の仕事に戻りたーい。副長補佐ってだけでなんでこんな目に・・・」
「そうだよっあんのヤロー!!新八を秘書にして傍にはべらかすだなんて、なんて羨ましっ・・・じゃねえ。むっつりスケベめええ!!!新八、あのクソヤローにエロイことされてねーだろうなっ!?仕事と偽って二人っきりの社長室であんなことやこんなこと・・・」
「それアンタが見てるAVの内容だろうがあああ!!!」
牢屋に閉じ込められていても、得物は捕られたが僕らの手足は自由だ。
見張りの男が僕らの声にうっとうしそうに舌打ちをしたが、坂田さんが鼻息を鳴らし相手を黙らせた。
坂田さんの威圧に圧倒させられたのだろう。
この人はたまに僕の知らない表情をする時がある。そんな時、僕は優しい(ストーカーの)坂田さんが見知らぬ男の人のように思えてぼんやり見つめることしかできない。
さっきまで軽く言い合えていたのに。
見張りの男を睨んでいる横顔を見つめる。
いつもは半開きの紅い瞳が、今は視線一つで大の男を黙らせる色を浴びている。
整った鼻筋に形の良い唇、逞しい体躯や頼もしい腕までを眺めた。
――この人、かっこいいんだな
「・・・・どうしてですか」
「ん?」
僕の声に振り向いた坂田さんの顔はもう、いつもと同じ表情になっていた。
やんわり温和な紅い色で僕を映す。
坂田さんの瞳に映されるたんびに、僕は聞きたくても聞けなかった言葉を初めて口にした。
「どうして、僕なんですか」
ああ、こんな時になんでコレなんだろう。
今は助かる道だけを考えることが先決なのに。
言葉にした瞬間に後悔の念が押し寄せるがもう遅い。
僕の問いに驚きを表現するかのように、眠たげだった瞳を大きく丸くする。
居た堪れなくなって、下に俯いてしまう僕はまだまだ未熟で子供だ。
真選組の隊服に身を包んでいたって、たった一人の人とこうして顔を向き合わせることがどんなに困難か。
それを教えてくれたのも、こうして自己嫌悪に陥る理由になっているのも僕自身であり目の前の男性なのだ。
静かになった空気に気圧され、僕は誤魔化すようにメガネのフチを指で上げたりした。
きっと坂田さんは鋭いから、ばれているだろう。
早く何かを言って欲しい。でも、やっぱり怖い。こんな時でさえ僕はこの人に頼ってしまう。
いつまで続くのか分からない沈黙の中、坂田さんが息を吐いた。
綿毛のような白いモフモフの後ろ髪をガシガシ掻き、んー・・・と坂田さんがゆっくりと続ける。
「じゃあさ、逆に聞くけど。新ちゃんはいつになったら“坂田さん”呼びから“銀さん”に変えてくれんの?」
「・・・え」
質問を投げたのに、逆に質問を打ち返されてしまった。
目を瞬かせる僕を、坂田さんは悪戯っ子のような目で可笑しそうに見つめる。
今の僕の顔ってどんな顔してるのだろうか。
僕の脳裏では、一回りも年上の男性を気軽に名前呼びになどできないとか、突然呼び方を変えるだなんて恥ずかしいとか、照れくさいとか。
そんな言い訳染みた事しか考えられそうにない。
他にも違う想いがきっとある筈なのに、今の僕にはこれしか考えるのが限界だ。
――なのに、この人は容赦ない。
いつもは優しいのに・・・
悩む僕に可笑しそうな笑みを浮かべていた筈なのに、坂田さんは雰囲気をぐらりと一気に変えた。
僕を覆い隠すかのように大きな体躯で、僕との距離を縮め、僕の眼には坂田さんしか映らないようにしてくる。
真近に迫る坂田さんはまるで狂気染みた影を浮かべ、僕に迫る。
成人男性を色っぽいと思ったのは、初めてだった。
今の坂田さんは今まで僕に接してくれた優しい坂田さんではなくて、どんな人でも虜にしてしまえそうな快楽に満ちた色を宿している。
言葉を失った僕は、震えだす肩を抑えることもできずに、力の入らない両足を冷たいコンクリートの床に投げ出し、ただ逃げ道を塞がれてしまった。
僕の向かい側に腕をつき、顔を身体ごと向きなおすと、僕の両足の間に片方の足を滑り込ませてきた。
「新八・・・・」
片耳に口を近づけた坂田さんの低音の声が耳から心臓までもをゾクゾク震わせた。
この人、声まで色っぽいなんてずるい。
そんなことを思ったけれど、今の僕は顔の火照りがとても熱くって堪らない。
「“銀さん”って呼んでみ?そうすりゃあ、全部分かるから・・・」
坂田さんの低い声と吐息が僕の耳を震わせ、熱に魘されたみたいに頭が痺れてぼんやりしてきた。
心臓の音がドクンドクンする。
目の前の坂田さんがとても近い。
近すぎて、もうすぐで唇がくっつちゃいそうだ。
熱い、熱い、熱い、熱い・・・・
「ぜんぶ?」
幼い子供のような聞き方をしてしまう。
そんな僕を、坂田さんはくすっと笑みを浮かべた。
そんな表情が余計に情欲に満ちた男性の色っぽさを掻き立てている。
「そうだよ全部。お前に教えてやるから・・・・」
身体中が痺れて身動きできない。
重くなっていく瞼に耐え切れず瞳を閉じると、坂田さんがゆっくりと唇を僕の唇に寄せてきた。
息を止めてしまった僕とは対照的に坂田さんの吐息が、僕の唇をくすぐる。
ダメ。
ダメだよ、これじゃあ。
“銀さん”って言えないじゃないか――――――。
『御用を改めでござる!!!神妙にお縄につけえええええええ!!!!』
――ゴンッ
建物の外から大音量の拡声器で怒鳴り声を上げた上司の声が聴こえたと同時に、僕の顔のすぐ真横で坂田さんが壁に顔を打ち付けた。
僕は余りにも恥ずかしさに、思わず半泣きしてしまったのだった。
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>>postman お題より
恥ずかしい奴ら。
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